【話の肖像画】小説家・真山仁(4) 震災を描くのは宿命 - 産経ニュース

【話の肖像画】小説家・真山仁(4) 震災を描くのは宿命

小説家の真山仁さん=東京都文京区(大竹直樹撮影)
 〈経済小説の旗手といわれるようになっても、ずっと書きたいと思っていたテーマがあった。震災だ。東日本大震災後の被災地を舞台にした社会派ミステリー『雨に泣いてる』に通じる原体験。それが平成7年の阪神・淡路大震災の被災経験だった〉
 フリーライターだった当時、震源地から10キロほどしか離れていない神戸市垂水区の7階建てマンションの1階に住んでいました。あの日は徹夜で執筆の仕事をしていて、書き終わり、ベッドに入ったところでした。轟音(ごうおん)がしたかと思うと激しい上下動があり、ああ、死ぬなと、思いました。諦観(ていかん)がよぎるとともに、天井を冷静に凝視し、とても腹が立ったのを覚えています。小説家になるために必死で生きてきたのに、こんな災害で殺すのか、と。
 永遠に続くのかと思われた揺れがやんで、結果的に寝室で壊れたものもなく、助かりました。震源地からのびた活断層が東にずれていたので難を逃れたのです。ただ、しばらくすると、なぜ自分が生き残ったのか。なぜ生かされたのか。後ろめたい思いもあって葛藤しました。そして余生だと割り切って、自分はなりたいもの、小説家になるしかないと思い定めました。収入があるからと、フリーライターとして生き続けることは、自分の人生を否定することになると思ったのです。そして、ライフワークとして震災を書かなければいけないと思いました。
 「3・11」の後は小説を書く場を得られたこともあり、被災地を何度も取材し、被災者が言いたくても言えないこと、被災地でタブー視されている問題をテーマに短編をまとめました。私なりにたどり着いた解は、生き残ったことを後ろめたく思う必要はない。だから強く生きていくということです。
 〈20年の北京五輪開催を前に、中国の世界最大の原発を舞台に、メルトダウンに迫った小説『ベイジン』を連載したが、その3年後には東日本大震災と未曽有の原発事故が発生。当時は、原発産業に注目し、近未来の日本の政治を描いた小説『コラプティオ』を雑誌に連載中だった〉
 『コラプティオ』の中で「リーマン・ショックから立ち直るために、原発輸出が必要」などと言っていました。しかし、こんなときに原発輸出でいいのかと。あの日初めて、宿命だと思いました。前に進むしかない。急遽(きゅうきょ)、連載中の原稿の締め切りを少し待ってほしいと編集部にお願いし、最終回だけ、震災が起きたことにして書き直そうと、原稿用紙170枚を3日で書きました。
 〈特捜検事・冨永真一シリーズ1作目の『売国』は、宇宙開発やロケットという壮大な舞台回しがあったが、2年前に産経新聞で連載された続編の『標的』は巨悪に挑む特捜検事の内面が描かれた〉
 作家生活が10年を過ぎ、シリーズものは『ハゲタカ』だけでした。もう少しミステリー寄りのことをやりたい。刑事事件だけど、殺人ではなく…。そう思っていた頃、厚生労働省の元局長が無罪になった郵便不正事件の捜査で、大阪地検特捜部の検事が押収証拠を改竄(かいざん)した事件(22年9月)がありました。
 地検特捜部がどういう仕事をしているのか。特捜検事はどうやって政治家を摘発していくのか。検事という人間が組織の中で何に縛られ、何をモチベーションに動いているのか描きたいと思いました。権力を監視する重しとして、特捜部には頑張ってほしいという思いもありました。 (聞き手 大竹直樹)