「海ごみガールズ」 美しい瀬戸内海に知と力 長辻象平

ソロモンの頭巾
地歴部で活躍する山陽女子高校の2、3年生。海ごみは研究や展示のために洗って保存している(長辻象平撮影)

 瀬戸内海の海ごみ問題に取り組む女子生徒たちがいる。山陽女子中学・高校(岡山市中区)地歴部のメンバーだ。先輩から後輩へと受け継がれた10年間の回収活動から、海ごみ問題の本質が見えてきた。新たな環境汚染として注目され始めたマイクロプラスチックのもとは海ごみなので、時代の先取りともいえる貴重なフィールド研究だ。

岡山の山陽女子が活躍

 地歴部の現部員は中高合わせて24人。海ごみの回収と分析は井上貴司教諭が部の顧問になった2008年から始まった活動だ。

 地歴部員は岡山県浅口市寄島町沖の瀬戸内海で調査を続けている。ここは県内3大河川の一つ、高梁川の河口に近い場所なのだ。

 海ごみは沿岸から海洋に投棄されたものと考えられがちだが、実は違う。

 「多くが陸域からの生活ごみなのです」と高校生部員の中原舞子さん、鵜沼真生さん、光石百花さん、木村萠々子さんが語る。

 自分たちの手と目で確認したことだ。

 寄島町沖の調査ポイントで回収した海ごみの多くは、高梁川の流れで瀬戸内海に運ばれてきた内陸起源のものだった。

 ちなみに、海ごみには(1)漂流ごみ(2)漂着ごみ(3)海底ごみ-の別がある。

 海で見つかる透明なポリ袋は、多くが破れている。川を下る過程で5ミリ以下の小破片であるマイクロプラスチックに向けての劣化が始まっているのだ。

回収作業を重ねて理解

 海ごみは多くの情報を持っている。レジ袋類では印刷されているスーパーの名前などから起点が推定できる。食品のパッケージには賞味期限が記されているので発生時期も分かる。

 寄島町沖での海底ごみの回収は年間、5回を超える。地元の漁師さんに船を出してもらい、底引き網で引き揚げる。1回の海上作業は約3時間。夏は暑くて日焼け止めが必要だ。冬の寒さは厳しいが、冬季には爪付きの底引き網の使用が認められているので、ごみ回収の能率が上がる。

 校内の部室に保管中の海底ごみを見せてもらった。空き缶の山に交じって、壊れた扇風機などの電気機器や蛸壺(たこつぼ)もあった。もんぺのような衣類もある。

 こうした各種のごみは、部員の手で分類、集計されて、瀬戸内海の海ごみに関する貴重なデータベースになっている。

 その分析を通じて、海底ごみは、海岸から遠くなるほど古いもの、劣化の進んだものが多くなることが確認された。海底ごみは海の底を移動するのだ。

マイクロプラも視野に

 海ごみの多くは、内陸部で発生しているにもかかわらず、上流域の人々は、その事実に気付きにくい。地歴部員は回収したごみの展示会を開くなどの理解活動を展開中だ。

 海底ごみは人の目に触れる機会がない。その可視化によって、上流と沿岸住民の意識の一体化を図ることが、問題の根本解決に不可欠と考えての活動だ。海洋の環境保全の大切さを伝える「海ごみカルタ」も作製している。

 これまでの活動から部員は、紫外線や波の力でポリ袋などの小片化が徐々に進んで漁網では回収できないマイクロプラスチックに変身し、魚たちの胃袋に入るという遷移の図式を実物で理解した。

 海の生態系への影響を抑えるには、マイクロプラスチック化させないことが肝要だ。「海に沈む前に」「川に流れ出る前に」「手元を離れる前に」と、段階を遡(さかのぼ)っての対応が重要になってくる。

漂着ごみが島を埋める

 漂着ごみは過疎と高齢化が進む瀬戸内の島々を脅かす。その実態も地歴部の活動を通して見えてきた。

 寄島町沖の先にある手島(香川県丸亀市)の北側海岸には本州からのペットボトルや洗剤容器などが層を成して堆積し、林の中まで散乱。高齢者が多い20人の島民の手だけでは対応不能な状態になっていた。

 部員が約3千点ものごみを回収してもたちまち元の状態に戻ってしまう。

 人の目に触れにくい海底や小さな島々は、押し寄せる海ごみの脅威にさらされている。この状況を社会に伝えつつ、ごみの回収と発生抑制に取り組む女子生徒の活躍はすごい。

 顧問の井上教諭は「瀬戸内海の海ごみは原因が生活者の側にある身近な問題なので、生徒が自分たちで考え、行動につなぐのに適したテーマだった」と話す。 環境会議などへの参加によって海ごみガールズは海外でも知られる存在だ。