自立心育む、ひと夏の体験 ジャーナリスト・細川珠生

解答乱麻

 この夏、息子(中学生)は、単身アメリカでサマーキャンプに参加した。意思疎通が可能な英語力はなく、本人にとっては不安いっぱいであったに違いない。その息子からキャンプ解散時、「帰りたくなかった」という感想を聞いた時には、私自身、試行錯誤の中、実現させた夏の経験がひとまず実りあるものになったことに安堵(あんど)した。

 子供は親が心配するより、実は潜在的な能力をたくさん持っていると思うことは、子育てをしていて度々感じることだ。今回のような機会も心配がなかったわけではないが、最終的には、どんな困難も乗り越えていけると、息子を信じるしかなかった。しかし、私自身も、そう思うに至るまでには、懇切丁寧なキャンプ主催者からのさまざまなサポートがあった。

 キャンプのハンドブックには実に事細かい説明がある。例えば、ホームシックに対して、長年の経験に基づき、解決にあたるという毅然(きぜん)とした方針と同時に、何かあれば帰ってきていいからなどいう安易な約束は事前にしないようにと、親に対して具体的な“注意”があるのだ。もちろん、本当に深刻だった場合には帰宅もオプションではあるが、例年2%未満だという。大概の場合は乗り越えられると勇気づけられるのである。

 子供との連絡は、ファクス、メール、テレホンカードを使用してキャンプオフィスの電話を借りるという方法だ。親から子供にはキャンプオフィス経由で可能だが、子供から親には、いったんコーディネーターが受け取るかたちで直接は送れない。電話に関しては「推奨しない」と明記されている。「キャンプでの生活を楽しんでいても、家族の声を聞いたとたんに、里心がついてしまう場合が多々ある」という理由だ。

 できるだけ親との安易な接触を断ちながら、自力で困難を乗り越えていくというキャンプの方針が非常に明確だ。どうしても連絡を取る場合も、「今日はどんなことにチャレンジしたのか」など「前向きな話題」を出すようにとの指示があるのだ。子供からのメールの返信が不可であるのは、スマホの持ち込み禁止と合わせ、完全にデバイス環境から遮断するという目的もあるという。

 現地スタッフが子供に接する状況も手厚い。一つのキャビンで8人のキャンパーに対し4人のカウンセラーが寝泊まりする。カウンセラーも正式なスタッフから、長年キャンパーとして参加していた子供が高校生になってカウンセラーを務めるジュニアカウンセラー、シニアカウンセラーなど、多様な立場からサポートにあたる。

 息子も到着直後は、全く意思疎通できず、コーディネーターを通じてヘルプのファクスが来たものの、カウンセラーのサポートでキャビンの仲間とも打ち解け、その後は一切の「ヘルプ!」はなく、私とも一度も直接のコンタクトをとらず、キャンプ期間を終えた。

 海外では、一見、個々が自立し、自己責任でどんなことも乗り越えていかなければいけないと思われている。事実、アメリカ社会の生存競争は厳しい。しかし、社会を生き抜くために必要な自立心、独立心を育て、自信を養うためには、実に手厚い指導や教育がなされていることも事実である。子供の潜在能力は大人の想像を超えていることは多々あるが、それでも勝手には育たない。日本の、特に中高生に対する教育は、往々にして単に野放しにしているだけのケースが多い。それでは真の自立にはつながらないのである。日本の教育は根本から作り直す必要があるのではないだろうか。

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【プロフィル】細川珠生

 ほそかわ・たまお 元東京都品川区教育委員。ラジオや雑誌でも活躍。父親は政治評論家の故細川隆一郎氏。千葉工業大理事。