【話の肖像画】小説家・真山仁(1)清濁(せいだく)併(あわ)せのむ「ハゲタカ」 - 産経ニュース

【話の肖像画】小説家・真山仁(1)清濁(せいだく)併(あわ)せのむ「ハゲタカ」

小説家の真山仁さん=東京都文京区(大竹直樹撮影)
 〈バブル崩壊後の「失われた10年」を経て、そのまま「20年」になろうとしていた平成16年、経済小説『ハゲタカ』で小説家デビュー。死に体の企業に群がる外資系ファンドの日本買いを描き、NHKの連続ドラマや映画になった。そして平成最後の夏、テレビ朝日系ドラマとして再び映像化された〉
 15歳のときから小説家になるために生きてきました。小説家になるため新聞記者も辞めました。もともと経済小説を書くつもりはなかったのですが、フリーライター時代、難しい金融工学の解説書をゴーストライターとしてまとめたことがあります。
 経済学の公式や微分積分を使わずに分かりやすく書いたので好評でした。実は、大手生命保険会社の破綻をテーマにした作品を「香住究(かずみ・きわむ)」というペンネームの共著で書いています。『連鎖破綻 ダブルギアリング』です。「もう小説家になれないかもしれない」と思ったことは一度もありませんが、当時私は40歳。ライターとして限界だとも思っていました。出版社の担当者に「共著は一回きり。もしこの本が売れたら、次は単独で出させてもらえますか」と尋ね、「構わない」との約束を取り付けました。
 〈後に幻の処女作といわれた『ダブルギアリング』は約3万部を売り上げ、翌年『ハゲタカ』は世に出た。主人公は外資系ファンドのマネジャー、鷲津政彦。腐った日本企業を容赦なく買いたたく「ダークヒーロー」ではあるが、人間味もある〉
 鷲津は悩みません。だからヒーローなんです。日本人は「正義」という言葉が好きですが、立ち位置によっては正反対の意味になります。個人の倫理を貫けば、場合によっては「悪」になる。清濁(せいだく)併(あわ)せのむ視点も持つべきではないかと思います。
 小説家になる前、新聞社に2年半在籍しましたが、経済は全く取材したことがありませんでした。書くためには、外資系ファンドの方を見つけなければいけません。つてを頼って誰とでも会いました。
 「私はあまり知らないので」と言われれば、その人にまた友人を紹介してもらい、数珠つなぎで取材した関係者は100人以上。講演会に押しかけて、いきなり名刺を渡したこともあります。そうして10人の核心的な人物に会うまで8カ月もかかりました。投資ファンドの「ユニゾン・キャピタル」の代表を務め、後にスカイマークの再建に尽力した佐山展生(のぶお)氏にも「ファンドの極意を指南してほしい」と訪ね、その後、大変お世話になりました。
 〈徹底した取材には、記者時代に培った経験が生きている。事実の上に虚構を紡ぐことで、迫真性に富むエンターテインメントが生まれるのだろう〉
 『ハゲタカ』はミステリーの手法を用いました。ノンフィクションと異なるのは、事実に縛られずに核心だけを加工できる点です。想像力で埋め、可能性を広げられるので、読者を小説の世界に引き込むことができます。(聞き手 大竹直樹)
【プロフィル】真山仁
 まやま・じん 昭和37年、大阪府生まれ。同志社大法学部卒。新聞記者、フリーライターを経て平成16年、企業買収の世界を描いた『ハゲタカ』で小説家デビュー。同著と『バイアウト』(『ハゲタカ2』に改題)は19年にNHKが「ハゲタカ」の題名で連続ドラマ化したほか、現在、テレビ朝日でも今年を舞台にしたオリジナルストーリーも加わったドラマが放映されている。本紙で連載された小説『標的』(文芸春秋)や、その前作にあたる『売国』(文春文庫)は「巨悪は眠らせない」としてテレビ東京系でドラマ化された。他の主な著書に『ベイジン』『プライド』『コラプティオ』『黙示』『オペレーションZ』など。