富士そば会長・丹道夫(5) 威張ると運は逃げていく

話の肖像画
富士そば会長・丹道夫氏 (宮川浩和撮影)

 〈「トーストそば」「まるごとトマトそば」「パキスタン風激辛カレーそば」「揚げたこやきそば」…。富士そばは、かなり変わったユニークなメニューが、店ごとにあることでも知られる〉

 従業員が考え、提案したものを商品化しています。お客さんの一番近くにいる人間が考えるのがいいとの思いでこうしています。料理のプロに依頼してメニューづくりをしていたら、ユニークなものは生まれないでしょう。

 私も以前、「サラダうどん」を考案し、売り出したことがあります。野菜を食べてほしいという気持ちから商品化したもので、うどんの上にゆでたキャベツやブロッコリーなどを乗せて、ごま油をちょっとかけてみましたが、あまり売れませんでした。こうして採用されるメニューも、多くは期待ほど売れずに姿を消していきます。

 従業員のアイデアに対しては、「だめだ」とは言いません。だめと言ったらアイデアが出なくなってしまいます。みんな楽しんでメニューを開発しているんじゃないかな。自分が考案した商品を売ることができるのですから。

 失敗した人を叱ることはありません。どんなに頑張っても失敗するときは失敗するものです。挑戦して失敗することで人は成長するものです。逆に挑戦しない人や、失敗から何も学ばない人は叱ります。他人の失敗をあざけり笑う人も叱責します。

 〈春と秋には、すべての店を自分の目で見て回る。自動車などは利用せず、電車で行くのが自身のスタイルだ〉

 富士そばは、「半歩でも駅の近く」という精神で立地のよい場所を選んで出店しているので、電車と徒歩が一番早いんです。それにお客さんと同じ視点で見ることができるメリットもあります。

 店では雰囲気を見ます。現場のことは売り上げなどのデータを見ただけでは分かりませんから。

 〈店訪問の際に持って行く手土産が、従業員を喜ばせている〉

 京都に本店のある和菓子屋の、ちょっと高価な手作りのまんじゅうと決めています。以前は別の物だったのですが、おいしくて、体によくて、めったに食べられないものがいいと考えて変えました。

 店のことは店長に任せているので、細かいところまでは見ません。店内は清潔か、みんな元気に働いているか。そんなところを見ています。店の営業の邪魔にならない時間にちょっと訪問し、食べたいものや売れているものを食べて店を出ます。これは“まかない”ではないのですから、きちんとお金を払います。一杯分でも売り上げが上がれば、みんなのやる気につながるでしょうから。

 私のことを、「強運の持ち主」と評する人がいます。確かに今日までこうしてやってこられたのだから運は悪くないのでしょう。ですが仕事以外で、例えば道ばたで大金を拾うだとか、そういう幸運に恵まれたことはありません。

 威張ると運は逃げていくものです。威張っている人に対して、何かを教えようとする人はいません。つまり情報が入ってこなくなるのです。情報が入ってこないと、運をつかみ損ねます。これは仕事だけでなく、あらゆる場面で大切なことなのです。(聞き手 櫛田寿宏)=次回は史家の渡辺京二さん