原子力規制委員会前委員長・田中俊一(4) 圧力はね返した「透明性」

話の肖像画
田中俊一さん(鵜野光博撮影)

 〈平成24年9月に発足した原子力規制委員会は「透明性」を掲げ、原発の安全性をめぐる電力事業者との審査会合をすべて公開した〉

 規制する側が規制される側の論理に取り込まれる「規制のとりこ」という言葉がありますが、それまでは、どんな規制を電力事業者にしているかが国民から見えなかった。発足した規制委に対して、いろんな圧力がかかるのは想像できた。それをどうやってはね返すかと言ったら、国民監視の下に規制を進めるのが一番いいんじゃないかと考えた。どこまで行けるか知らないが、徹底して公開しようと。

 それは、とても良かったのではないかと考えています。国民の目もあり、メディアも見ていることで、規制委の独立性は担保できたと思います。

 もちろん電力事業者は戸惑ったんじゃないですか。規制委のやり方に不満はあると思うし、重い規制になっているとは想像しますが、新規制基準に合格することで原発再稼働の道が開けたということについては、評価している面もあると思っています。

 〈在任中に高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の運営主体を日本原子力研究開発機構以外に求めるよう勧告し、結果的に政府は廃炉を決めた〉

 施設の点検漏れなど不適切事例が相次いだのは問題外で、自ら墓穴を掘って潰れたにすぎず、私が何かしたわけではない。廃炉が決まって明らかになったのは、もんじゅの燃料を取り出すだけで5年半以上かかるということ。取り出して新しい燃料を入れるのに7年も8年もかかる。それで発電炉として成り立つのか。電力事業者は絶対やらないでしょう。

 それに、東京電力福島第1原発のような冷却材喪失事故が起こると、高速炉は核暴走する可能性がある。そんなものを民間がやりますか。民間が使わない技術を、なぜあれほどカネをかけてやったのかと怒りも覚えます。文部科学省が自分の責任になるのがいやだからずるずるやってきたけれど、結果的にありがたいと思っているはずですよ。

 〈任期終盤には、東電柏崎刈羽原発6、7号機の審査を集中的に行った〉

 私の時代には間に合わなかったが、審査終了は時間の問題でした。審査をずっと塩漬けにしておく合理的理由はないし、規制委の判断を受けて、再稼働するかどうかは東電と住民と政治の問題だというのが、規制委の基本的な考え方です。

 〈審査では、福島第1原発のトリチウム水の処理のため住民と向き合うことを、東電の事業者としての適格性の一環として強く求めた〉

 貯蔵タンクを増設するスペースはほとんどないから、排出濃度基準以下のトリチウム水は海に捨てるしかない。事故前は捨てていたのだから問題ないという、常識的な理解をされている首長は多い。漁業者も、捨てるとマスコミが騒いで風評被害が広がるという心配はあるが、後継者不足の問題がマイナスイメージによって悪化することを恐れている側面もある。そうなるとトリチウム水とは別の問題です。

 本音を地元の人から引き出し、本当の話ができるようにしなければいけない。(昨年6月に東電の社長に就任した)小早川智明さんは、引き受けたからには住民の本音に向き合う覚悟をしてほしい。ただ、東電が何か具体的に事態の解決に向けて取り組んでいるかを地元で感じるかといえば、ほとんど感じません。 (聞き手 鵜野光博)