【話の肖像画】大原美術館館長・高階秀爾(5) 作品は文化遺産、意識高めてほしい - 産経ニュース

【話の肖像画】大原美術館館長・高階秀爾(5) 作品は文化遺産、意識高めてほしい

高階秀爾氏(三尾郁恵撮影)
 〈美術界が直面する多くの課題に取り組む。東京大学生協が昨年9月、食堂の壁面を飾っていた宇佐美圭司氏の絵画を改修工事に伴い破棄した“事件”が象徴するのは、作品に対する保存意識の脆弱(ぜいじゃく)さだ〉
 あんなことが大学で起こり、残念です。大学が文化的資産としての意識を持っていればよかったのに。東大で教えていた40年ほど前、新しくなった学生食堂の壁に、学生の刺激になる絵を掛けたいと生協から相談を受けました。それで、前衛的な作品を制作していた宇佐美君を紹介したのです。
 知的でいい作品でした。時間の経過で古びた感じはありましたが、歴史を含んだ時間が目の前にあった。絵画も文化遺産ですから、今後は、このようなことがないようにしてほしい。
 作家の作品がどこにあるのか、日本では欧米のように管理があまり進んでいません。著名な芸術家の作品や優れた作品をデータベース化し、アーカイブ(保存記録)に残すことが非常に重要です。情報が共有されていれば宇佐美君の作品も廃棄されなかったでしょう。ただ、それは美術館の役割でもあります。特に欧米の美術館は、作品目録などを実に細かく整備しています。
 日本にも好例があります。美術評論家の海上雅臣(うながみ・まさおみ)さんが編集した井上有一(前衛書家)のカタログ・レゾネ(総作品目録)です。
 井上がサンパウロ・ビエンナーレ(1957年)に出品した「愚徹」は、英国の高名な美術評論家、ハーバート・リードの著書「近代絵画史」で紹介され、米抽象表現主義の画家、ロバート・マザウェルら現代アーティストに影響を与えました。井上の作品は国立美術館にも収蔵され、近年は世界的なコレクターが収集しています。それを支えているのが総作品目録で、作品の所在や経歴がわかるため贋作(がんさく)が出にくくなり、展覧会の開催にも役立ちます。
 つまり海上さんの仕事によって、井上の作品への評価は近年一段と高まったのです。パリで開催中の日仏友好160年記念イベント「ジャポニスム2018」でも、戦後の現代美術を代表する一人として公式企画展が開催されています。
 〈訪日外国人が増え続けているなか、美術館を訪れる外国人が、地域によってはあまり多くないという課題もある〉
 音声ガイドは充実してきましたが、まだ足りないようです。展示作品には解説文などに外国語の表記を付けるべきですね。最低でも英語、中国語、韓国語くらいはないと。それが日本美術の理解にも生かされるわけです。美術館の情報を、世界に向けて外国語で積極的に発信することも必要です。
 〈1部屋まるごと書庫にするほどの読書家で、特にミステリー小説が好き。多くの著書もあり、その中でも名著とされるのが「名画を見る眼」だ〉
 あの本では絵がどういう意味を持っているかを解説しました。それまでの美術本といえば、色彩や構図を論じていて難しかった。名画にはいろいろな意味があり、さまざまな見方があります。象徴的な意味や歴史的な背景などを加え絵解きをしたのです。
 絵解きは、ミステリー小説を読むのと似ています。残されたものを手がかりに、絵に秘められた謎を解いていくのです。面白いですよ。(聞き手 渋沢和彦)=次回は原子力規制委員会前委員長の田中俊一さん