【話の肖像画】大原美術館館長・高階秀爾(1) 世界文化賞は交流の場でもある - 産経ニュース

【話の肖像画】大原美術館館長・高階秀爾(1) 世界文化賞は交流の場でもある

第30回世界文化賞の受賞者発表会見で絵画・彫刻部門の授賞理由を説明 =東京都千代田区(桐原正道撮影)
 〈今年、30回目の節目を迎えた高松宮殿下記念世界文化賞の絵画と彫刻部門の選考委員長を務めている。平成元年に始まった同賞は、大きな功績があった世界の芸術家を顕彰し、海外では「芸術界のノーベル賞」ともいわれる。今月11日発表された第30回受賞者5人を加え、受賞者総数は154人に上る〉
 毎回、どんな候補者が挙がってくるか楽しみです。各国の国際顧問のもとにいる専門家が、候補者リストを作ります。当初は欧米中心でしたが、アジア、アフリカなど多様な地域から挙がってきます。政治問題などで苦労している芸術家もおり、世界文化賞のような顕彰制度は大きな励みになるのです。
 海外での知名度も高く毎年、外国の新聞では大きく扱われ、高く評価されています。皇室ゆかりの賞だと外国人は知っているからでしょうね。
 〈今年は絵画部門にベルギー出身の画家、ピエール・アレシンスキー氏(90)、彫刻部門に“霧のアーティスト”として知られる中谷芙二子氏(85)らが選ばれた〉
 多様な地域から、多くの芸術家が受賞しています。中国出身で米国在住の現代美術家、蔡國強(さい・こっきょう)氏(第24回絵画部門)の作品は非常に個性的です。火薬を爆発させて描いた「火薬絵画」は、ダイナミックで壮観。受賞後、大規模な個展も開かれました。
 第3回の受賞者、バルテュス氏(フランスの画家)にも思い入れがあります。彼はパリでの日本古美術展の作品選定のために昭和37年に初来日し、その後も来日していますが、インタビュー嫌いで、めったに会えない芸術家です。世界文化賞受賞で、会見やイベントでさまざまな話を聞くことができました。すべてが貴重な体験でした。
 〈秋の授賞式前後には、来日した受賞者が能などを鑑賞し、伝統文化に触れる。祝宴では日本の芸術家らと交流する〉
 外国の受賞者たちは、明治神宮などの建築や深い森に覆われた景色、伝統的な儀式を見て、驚くことが多い。日本は自動車や鉄道など技術立国として知られていますが、古めかしい文化も残っていることを知るのです。芸術家たちの感性は非常に繊細で鋭敏で、現代の精密機械やITなどに日本の伝統文化が生きていると気付きます。
 建物やデザインなど優れたものは昔から日本にあります。それが芸術の中で遺伝子として残っていることに日本人自身が気付くことは少ない。外国人が見つけてくれます。来日した芸術家たちが異なる何か新しいものを見つけることが、とても重要です。
 どの国にも伝統があり、彼らの芸術作品を通じてその国を理解できます。世界文化賞は文化の振興と同時に、文化交流としても大きな役割を果たしています。(聞き手 渋沢和彦)
【プロフィル】高階秀爾 たかしな・しゅうじ 昭和7年、東京生まれ。美術史家、美術評論家。東京大教養学部卒業後、同大学大学院で美術史を専攻。フランス政府給費生として29年からパリ大学付属美術研究所で近代美術史を学ぶ。国立西洋美術館の主任研究官などを経て東大教授。退官後、同美術館館長を務め、平成14年から大原美術館館長。前年にフランス政府からレジオン・ドヌール勲章シュバリエを受章。24年、文化勲章受章。ルネサンス以降の西洋美術史と日本美術史に詳しく、著書に「ピカソ 剽窃(ひょうせつ)の論理」「日本人にとって美しさとは何か」など。