【話の肖像画】映画監督ヤン・ヨンヒ(1) 小説「朝鮮大学校物語」発表 “祖国”敵に回した総連幹部の娘 - 産経ニュース

【話の肖像画】映画監督ヤン・ヨンヒ(1) 小説「朝鮮大学校物語」発表 “祖国”敵に回した総連幹部の娘

ヤン・ヨンヒさん(斎藤良雄撮影)
 〈今年3月、自身の出身校での経験を基にした小説「朝鮮大学校物語」を発表した。これまで一般に知られてこなかった同校の学生生活を詳しく描写し、関心を集めている〉
 自分でも、なかなか特殊な学校に通っていたと思いますけどね。日本に暮らす1980年代の大学生が「倭風洋風(ウェプンヤンプン)(日本や西洋の文化)を追放しろ」と教育されたり、抜き打ちの荷物検査で寮の部屋を荒らされたり。本にも書きましたが、実際の話です。こんな大学が東京にあるのか、と読者を驚かせたい気持ちもありました。
 ただ、登場人物たちは日本の大学生と同じように、恋をしたり悩んだりしながら生活している。読者の方も何らかの組織に属して、上下関係や恋、進路で悩み、必ずしも言いたいことが自由に言えるわけではないでしょう。時代や場所を問わない共通項を見つけてもらえればと思います。
 本への反応は…さまざまですね。長文の感想を寄せてくれる朝鮮大学校OBもいれば、事実と違う、と怒り出す人もいる。朝大の学生は皆こうだ、と言っているわけではなくて、あくまで私の話をしているだけなんですが。北野武監督のヤクザ映画を見て、「俺の組と違う」と怒り出す組員はいないでしょ(笑)。やっぱり、在日はまだ作品の題材として扱われることに慣れてないんです。もっといろんな創作に登場して、善人に描かれたり悪人にされたりすれば、突き放して客観視できるんでしょうけど。
 〈父親は大阪朝鮮学園の理事長も務めた、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の幹部。北朝鮮への忠誠を誓う「模範家族」の一員だった娘は今、祖国への渡航が禁じられている。平壌に暮らす家族の様子を撮影し、知られざる当地の生活実態を描いたドキュメンタリー「ディア・ピョンヤン」を発表したことが、北朝鮮の逆鱗(げきりん)に触れた〉
 北朝鮮に渡って暮らす兄の1人が亡くなり、北朝鮮訪問を計画していたところ、母が組織の担当者から呼び出され、「娘さんは行けません」と言われました。「謝罪文を書きますか」ですって。書くわけないだろ、と鼻で笑いましたが。
 作品は、体制批判をする目的で作ったものでは決してありませんでした。しかし、北の反応を受け、あやふやなスタンスでいるのもいやになった。謝罪文の代わりに、自分の回答として「愛しきソナ」や「かぞくのくに」を発表し、さらにもう一歩踏み込んだ表現に挑戦しました。
 「作品が、北朝鮮で暮らす家族に不利益を与えないか」。海外の映画祭でよく尋ねられます。24時間365日心配です。でも、どこの国にも良い話があり、悪い話がある。いろんな家族がいる。家族が人質に取られているといって、それを口にできない時代はもう終わりにしたい。私はただ、「うちの家族」を描いただけなんです。(聞き手 時吉達也)
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 【プロフィル】ヤン・ヨンヒ
 昭和39年、大阪府生まれ。在日コリアン2世。朝鮮大学校文学部卒業後、大阪朝鮮高級学校の国語教師を経て、役者やラジオパーソナリティーとして活動。北朝鮮で生活する家族を題材にしたドキュメンタリー「ディア・ピョンヤン」(平成17年)「愛しきソナ」(21年)が世界各地の映画祭で注目を集める。北朝鮮から一時帰国した兄と在日の妹らの家族の絆を描いた映画「かぞくのくに」はキネマ旬報ベストテンで、24年公開の日本映画1位に選ばれた。今年3月、小説「朝鮮大学校物語」(KADOKAWA)を発表した。