自民党副総裁・高村正彦(5) 愚者は体験に学び、賢者は歴史に学ぶ

話の肖像画
高村正彦氏(萩原悠久人撮影)

 〈6月12日の米朝首脳会談を受け、北朝鮮による日本人拉致問題の解決が再び焦点に浮上した〉

 外務政務官時代、私から求めて拉致問題について外務、警察の担当者らから説明を受けました。警察は証拠を示して説明してくれました。外相時代には拉致被害者家族ともお会いしましたが、涙なしには聞けない話でした。私は日本の外相として初めて「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」「国交正常化なくして経済協力なし」という方針をつくりました。日韓の国交正常化交渉では韓国の国家予算の1年半分ぐらいの経済協力を行いましたが、北朝鮮も国交正常化し、大型の経済協力がのどから手が出るほど欲しいはず。ここをしっかりインセンティブ(誘因)にしようと考えました。

 外相在任中は、国連のアピールとして北朝鮮に人道目的で食糧支援する話も持ち上がりました。外務官僚から「人道支援だから大型経済支援には当たらない」と求められましたが、突っぱねました。北朝鮮が拉致問題の存在すら認めないのに支援したら、「拉致を素通りしたまま大型経済協力も得られる」と誤解しかねません。以降、日本政府は少なくとも大型経済協力については「拉致問題の解決なくして-」の原則を崩さず、結果、「拉致・核・ミサイルを包括的に解決した上で国交正常化する」という平成14年の日朝平壌宣言につながりました。

 今回の米朝首脳会談では、北朝鮮の非核化が焦点となりました。「完全かつ検証可能、不可逆的な非核化(CVID)」を確実にやってもらわなければなりません。日本に届く中短距離ミサイルの解決策も含め、トランプ米大統領にきちんと交渉してもらうよう説得できるのは、安倍晋三首相だけです。完全なCVIDは10~20年かかるでしょうが、核兵器や核物質を外に持ち出すくらいは短期間にやらせないとまずい。約束だけでなく、重要部分を実行して初めて「見返り」としなければなりません。

 〈政治家として心がけてきたのは「振り子を真ん中に」という信念だった〉

 戦前は軍国主義になり、勝てるはずのない米国との太平洋戦争まで踏み込みました。逆に戦後は「抑止力を持つのは悪いこと」との考えまで広がり、振り子が右から左へと大きく振れました。

 「愚者は体験に学び、賢者は歴史に学ぶ」との言葉があります。歴史上、戦争を仕掛けて負け、ひどい目にあった国もたくさんありますが、戦争を仕掛けられて侵略され、滅びた国の方が多いでしょう。「自分さえ攻めなければ平和な生活を送ることができる」というのは、想像力が欠如しています。歴史に学べば、平和外交努力をしつつ、一定の抑止力を持つ「現実的平和主義」に行き着くのです。

 皆、平和な生活を続けたい。それには「侵略しない」だけでなく、「侵略されない」ことも大切です。ごくまれに、人を殺すくらいなら攻められても黙って死ねばいいという人もいるでしょう。よその国に助けてもらうくらいなら、独力で戦って負ければ潔く死ねばいいという人もいるかもしれない。いずれも日本人の大多数の願望ではありません。大多数は「何をおいても自分の命と暮らしを守ってほしい」と思っているのではないでしょうか。大多数の真の願望を見据え、少しでも近づくようにするのが政治家の使命です。(聞き手 水内茂幸)