アーティスト・野老朝雄(4)個が群になると強固な絆

話の肖像画
野老朝雄さん(宮川浩和撮影)

 〈肩書は便宜上、アーティストとしているが、美術や建築、デザイン、ファッション…と領域を横断しながら自由な活動を展開している。建築家の千葉学さんや阿部仁史さん、ブランドのイッセイミヤケなどとの協働でも知られ、建築や洋服、バッグなどにパターン(紋様)を提供してきた〉

 今の世の中って何か一つに決めたがるけど、もっといろんな領域が混じっていいと思う。僕の場合、行為としては「デザイン」なのでしょうね。ただ、クライアント(顧客)からの仕事が主ではなく、自発的な創作活動を出発点としている。その“自分勝手”なやり方に誇りを持っているところがありますね。

 そもそも僕の場合、美や創作のクライテリア(判断基準)を幾何学に置いているから、融通がきかないんですよ。クライアントに「ここ、線を2つ足して」と言われても、「そんなの無理に決まってるでしょ!」ってなります(笑)。

 僕はずっと、ピース(部分)がつながり生成される紋様を追求してきました。「個」が「群」になることで、豊かな可能性が生まれると思うのです。

 象徴的な例が、熊本地震(平成28年)や九州北部豪雨(29年)の被災地で、仮設住宅の環境改善に取り組む九州・山口の建築系学生の活動「KASEIプロジェクト」のロゴマークです。

 〈熊本県の建築都市文化事業「くまもとアートポリス」を中心に、そのコミッショナーである建築家、伊東豊雄さんらが支援し進めている建築系学生のプロジェクトで、野老さんも協力。KASEIとは英語表記の頭文字を取ったものだが、「加勢をつける」という語呂合わせでもあるという〉

 まず僕は、社会の最小単位である「人」という文字を図案化し、「ヒトビット」パターンと名付けました。ロゴマークはそれを、花のように組み合わせたものです。

 悲しいことですが、被災地でも盗難事件など物騒なことは起きます。一人暮らしのお年寄りなど、見ず知らずの若者らに警戒心を抱く方は少なくない。そこで学生たちは、KASEIのロゴマークの入った黄色のビブス(サッカーをする際に着るベストのような服)を着ることにしました。

 ビブスを着ていると、お年寄りが「あ、KASEIのお兄ちゃんね。ご苦労さま」と言って、初めてお茶を出してくれたという話を聞きました。被災者に安心を与えていると知って、うれしくなりましたね。その後、約110カ所ある被災住宅それぞれのロゴを、学生らが住民とともに「ヒトビット」を使って制作するプロジェクトも広がっています。まさに「人」という個が集まり、群になって協力し合い、強固な絆が生まれていくんだなと感じます。

 「ヒトビット」は僕に属するものではなく、オープンに使ってほしい。熊本がきっかけですが、広く復興や人道支援のロゴとなったらと考えています。

 少し唐突ですけど、2020年のオリンピック・パラリンピックがすべて終了した後、一斉に街中にあるエンブレムの付いたポスター類がはがされ、跡形もなく消えていく喪失感について、今から想像を巡らすことがあります。2020年の後に何を残せるか。以前よりも、自分のやるべきことに対して真剣になれている気がします。(聞き手 黒沢綾子)