【話の肖像画】ミュージシャン・小室等(1)谷川俊太郎と歌作りの旅へ - 産経ニュース

【話の肖像画】ミュージシャン・小室等(1)谷川俊太郎と歌作りの旅へ

(飯田英男撮影)
 〈公開中のドキュメンタリー映画「獄友(ごくとも)」(金聖雄(キム・ソンウン)監督)の主題歌「真実・事実・現実 あることないこと」の作曲を担当した〉
 冤罪(えんざい)の実態を訴えた映画なのですが、金監督から(アフリカ飢餓救済のため米国の著名歌手らが参加した)「ウィ・アー・ザ・ワールド」みたいな曲で応援できないかと相談されて…。そんなの不可能だと思いましたが、呼びかけたところ、多くの仲間たちが集まってくれたんです。
 僕が作曲した主題歌「真実・事実・現実 あることないこと」では、(音楽ユニットである)「六文銭」のメンバーの及川恒平や四角(よすみ)佳子、ピアニストの谷川賢作さん、サックス奏者の坂田明さんなど多くの仲間が集まった。3月に発売された同名タイトルのアルバムにも20人以上が参加してくれたんです。うれしかったですね。
 〈主題歌の作詞を手掛けたのは、日本を代表する詩人、谷川俊太郎さんだ〉
 俊太郎さんとのつきあいは古く、約半世紀になります。当時、僕は歌作りを始めた頃でしたが、歌詞が作れずに悩んでいた。すると、知り合いの詩人、茨木のり子さんから「それなら、谷川俊太郎さんの詩を読みなさい」と勧められました。それで俊太郎さんの詩集を読んで、「あげます」という作品に大きな衝撃を受けたんです。
 〈「あげます」は、りんごをかじったり、1人で歌ったりする「私」の唇の様子を描く。その唇を「あなた」に初めてささげるという内容だ〉
 たわいない内容なのに、含みのある言葉を多用し、想像力をかき立てられる。リズム感があり、読み始めたら曲が自然に脳裏に浮かんできました。
 昭和43年ごろ、茨木さんの仲介で、長野県と群馬県の県境辺りにある俊太郎さんの別荘を訪ねました。これは僕にとって「歌作りの旅の始まり」になるな、という確信があった。確か、音楽仲間ら4人で一緒に押しかけたんだと思います。
 「あげます」などを歌ったところ、俊太郎さんは真剣に、微動だにせず聴いてくれましたね。後に俊太郎さんは、僕らの来訪についてエッセーの中で「歌もギターも決して上手ではなかった。それなのにその一瞬、音楽はまさしく私を圧倒した」と書かれた。今でも折に触れ、読み返しています。
 〈53年、谷川さんと組んでアルバム「プロテストソング」を発表。39年後の昨年9月には、全13曲を谷川さんが作詞した最新アルバム「プロテストソング2」も出した〉
 プロテスト(抗議)というと政治的なメッセージととらえられがちですが、俊太郎さんは「プロテストは自分の暮らしそのものの中に存在している」と言われている。嫌なものは嫌、おかしいものはおかしいと意思表示することが、僕らのプロテストソングだと思っています。(聞き手 竹中文)
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【プロフィル】小室等
 こむろ・ひとし 昭和18年、東京都生まれ。フォークグループ「PPMフォロワーズ」を経て昭和43年に音楽ユニット「六文銭」を結成。歌手の上條恒彦さんと組んで「出発(たびだち)の歌」をヒットさせる。ソロとしては46年にシングル「雨が空から降れば」を発表。50年に吉田拓郎さん、泉谷しげるさん、井上陽水さんらと音楽家によるレコード会社「フォーライフレコード」を設立した。平成29年に谷川俊太郎さん作詞のアルバム「プロテストソング2」を出し、今年は楽譜と詩の書籍「プロテストソング」も出版した。