【平成30年史 デジタルが変えた文化(6)】ファッション(下)憧れより自分らしく楽しむ - 産経ニュース

【平成30年史 デジタルが変えた文化(6)】ファッション(下)憧れより自分らしく楽しむ

インスタグラムの国内月間アクティブアカウント数
 近年、ファッション界で急速に影響力を増してきたのが、写真共有アプリ「インスタグラム」だ。多くのフォロワーを持つユーザーは、インフルエンサー(影響を及ぼす人)と呼ばれる。
 「ここで撮ろうかな」
 2月下旬のある日、大阪府八尾市の祖母の家で、田中彩子(31)は、友人にデジタルカメラを渡した。長男(4)と一緒に撮影してもらい、インスタグラムに投稿した。
 お気に入りの緑色のコートに、グレーのTシャツ。長男にもグレーを着せた。親子で衣服の色や柄、素材などの一部をそろえる「親子リンクコーデ」だ。投稿に応じた「いいね!」はすぐに2600件を超えた。
 「インスタに投稿するのは私にとって日常的なこと」と田中は言う。
 もともとファッションが好きだった。友人が始めたからと「なんとなく」始めたインスタが、田中の世界を大きく変えた。よくチェックするのはスタイリストのインスタだ。「ユニクロ」や「無印良品」など手頃なブランドを上手に取り入れているのを見て、影響を受けた。
 「ほかの人の投稿を見て、こんなブランドがあるんだと発見したり、着こなしが勉強になったり、ファッションの楽しみ方が広がった」と話す。
 田中の投稿も人気を呼び、フォロワーは12万人まで増加。昨春にはワニブックスからスタイルブックも出版した。
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 インスタグラムやツイッター、フェイスブックのようなSNSの利用者は増え続けている。企業もインフルエンサーの影響力を無視できなくなっている。
 広告プロデュース事業を手掛ける「3ミニッツ」は、独自ブランド「エイミーイストワール」で、23万人のフォロワーを持つインスタグラマー「MANAMI」をクリエイティブディレクターに起用。平成28年7月に行った会員向けの先行販売では、1時間で約2千万円を売り上げ、アパレル関係者を驚かせた。
 かつて、最新のトレンドを知ることができるのは、高級ブランドのショーに招待されるような業界関係者や編集者ら一握りの人たちだけだった。しかし、企業にとってもSNS戦略が大きな意味を持つようになった今はちがう。ショーにはインフルエンサーも招待され、コレクションの情報はすぐにインターネットを通じて配信される。一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構の国際ディレクター、信田阿芸子(47)は、「感度が高い人は、いくらでも情報を取ることができる」と話す。
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 デジタル技術は、情報発信だけでなく、生産現場も大きく変えている。
 経済産業省の報告書によると、3年に約20億点だったアパレルの国内供給量は23年には40億点を超えた。
 原因の一つが、「ユニクロ」や「H&M」(スウェーデン)などファストファッションの台頭だ。生産から小売りまでを一貫して行うSPA(製造小売り)により、トレンドを製品に反映させ、安価で良質な商品を素早く販売する。
 9年に日本法人を設立したスペイン発のファストファッションブランド「ZARA(ザラ)」では、国内約100店舗に週2回新商品が投入される。ザラを展開するアパレルグループ全体で生産される商品点数は1年間に13億点だ。
 ファストファッションの台頭は、おしゃれのかじ取りを消費者の手に委ねる流れを加速させた。手頃な服から、自分の好きなものだけを選べばいい。
 通信販売大手の千趣会が運営する「ベルメゾン生活スタイル研究所」が28年に20~60代の女性を対象に行った調査では、購入したブランドで最も多かったのが「ユニクロ」。次いで「GU」「無印良品」と手頃な価格のファッションブランドが並んだ。洋服を購入するときに「流行より好みを重視する」と答えた人は9割近かった。
 ファッションはもう、あこがれの存在ではない。ファッションジャーナリストの宮田理江は言う。「昔はおしゃれをしようと、収入を超えてブランドものを買う人もいた。今は、安くて良いものが増え、誰もが無理せず、自分らしいおしゃれを楽しめる。ファッションの民主化が進んだ」
 それは、成熟化と呼んでもいいのかもしれない。(敬称略)