【平成30年史 デジタルが変えた文化(2)】ユーチューブ 「ダンシング・ヒーロー」再評価のなぜ - 産経ニュース

【平成30年史 デジタルが変えた文化(2)】ユーチューブ 「ダンシング・ヒーロー」再評価のなぜ

昨年の「第59回 輝く!日本レコード大賞」の一場面。歌手の荻野目洋子と大阪府立登美丘高校ダンス部が共演した=2017年12月30日(撮影・吉澤良太)
 バブル時代を思い起こさせる赤や黄、青や緑などのカラフルなボディコン衣装にロングヘアで息のあった激しいダンスを披露する女子高校生たち。同じステージ上で、歌手の荻野目洋子が軽快にステップを踏みながら、ヒット曲「ダンシング・ヒーロー」を熱唱した。
 昭和の出来事ではない。昨年12月30日にTBS系で放送された「第59回 輝く!日本レコード大賞」の一場面だ。荻野目が昭和60年に発表した大ヒット曲「ダンシング・ヒーロー」がリバイバルヒットしたのだ。昨年8月に行われた「日本高校ダンス部選手権」では、この曲に合わせて大阪府立登美丘高校ダンス部が軽快なステップを披露し、準優勝を獲得。動画も支持を集めて昨年10月2日付のビルボードジャパン週間国内チャートで2位に輝いた。
 カラオケでも人気が出ていて、市場調査会社「オリコン」によると「ダンシング・ヒーロー」が週間カラオケランキング(1月1~7日集計)で初の1位を獲得した。
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 キレのある動きなど、ダンスとしての完成度が高いこと以外にも“バブリーダンス”に注目が集まるのには理由がありそうだ。
 「1980~90年代前半の音楽を復活させようという動きが、ここ数年で顕著になっている。当時の音楽が格好良く感じられるような時代になった」
 こう語るのは、ビルボードジャパンのヒット曲の集計を行っている「阪神コンテンツリンク」のビルボード事業部担当部長、礒崎誠二(49)だ。「ダンシング・ヒーロー」はいつの間にか盆踊りの曲としても定着していて、復活の兆しはあったという。礒崎は「楽曲の力強さに加えて、今の流行の音楽にも合致した。だから、再評価されたのだろう」と分析する。
 子供からシニアまで口ずさめる「ダンシング・ヒーロー」。しかし、ほんの少し前までは、音楽のデジタル化によって“国民的”なヒット曲は出にくくなる-と言われていた。
 音楽配信を手掛ける「レコチョク」は平成14年に携帯電話(ガラケー)向けに着信音に使える音楽の配信サービス「着うた」をスタート。16年には、楽曲全体を配信する「着うたフル」を始めた。新しいメディアに強い関心を示したのは若者たち。「対象となる世代が分散したために年齢を超えた“共通言語”としてのヒット曲が誕生しにくくなった」と礒崎は振り返る。しかし、デジタル環境は変化を続ける。
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 17年に動画投稿サイト「ユーチューブ」が始まり、その後、定額制音楽配信サービスも世に浸透した。より気軽にインターネットにアクセスしやすい環境が整い、ネットが世代間交流の場になった。
 そんな中で、ダンスを伴う楽曲が高い評価を得るように。自治体職員や企業社員らがダンス動画を投稿サイトに次々と投稿した「恋するフォーチュンクッキー」(AKB48)が人気を集めた。シンガー・ソングライターの星野源が出演したテレビドラマで、出演者たちがエンディング曲「恋」に合わせて踊る「恋ダンス」は社会現象にもなった。
 一方、気軽に過去の音源にアクセスできるようになった若者たちは、往年のヒット曲にも興味を示し始めた。礒崎は「80~90年代の人気曲は老若男女に親しまれやすく、カバー曲としても注目を浴びるようになった。この頃への回帰現象は続いている」と指摘する。デジタル化が音楽の再発見をうながしたのだ。
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 「聴き放題」という新しい音楽文化
 3月19日に東京都江東区で異色の音楽ライブが行われた。「NOW PLAYING JAPAN LIVE」。「聴き放題」の定額制音楽配信サービスや音楽専門チャンネルで人気を集めるミュージシャン4組がパフォーマンスを披露するというイベント。完全招待制の無料ライブだったが、2千人の定員に対して2万6千通の応募が寄せられたという。
 「今日の景色を毎日、想像してきました! 本当にありがとうございます」
 そうあいさつしたのはアニメのキャラクターを思わせる奇抜なメークと澄んだ歌声によって、動画投稿サイト「ユーチューブ」などで人気を集める女性シンガー「Miracle(ミラクル) Vell(ベル) Magic(マジック)」だ。6つの定額制音楽配信サービスが推薦した7組の新人の中で、一定期間中の音楽再生回数が最も多かったため、人気ヒップホップグループ「KICK THE CAN CREW(キックザカンクルー)」らとともに、この舞台に立つことができた。
 ベルが謝意を伝えると、「おめでとう!」というファンの声と温かい拍手が会場を包んだ。
 ジャンルもテイストもファン層も違うミュージシャンが同じ舞台に立つ。「聴き放題」という新しい音楽文化の浸透度を示すライブの風景だった。
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 CD不況下といわれて久しいが、定額制音楽配信サービスは日本国内で順調に拡大してきている。日本レコード協会によると同サービスの売り上げは右肩上がりに増加し、平成29年は約243億円以上に膨れあがった。
 気軽に楽しめる定額制音楽配信サービスの活況によって活躍の場を広げたのは、ベルのように動画投稿サイトで話題を呼ぶミュージシャンだ。動画投稿サイトの特徴の一つは、玄人と素人の境界線の曖昧さ。「平成」という時代に入って投稿サイトの潮流は大きく変わったが、そのきっかけとなったのは、16年に商品化された「ボーカロイド」(ボカロ)だった。歌詞とメロディーをパソコンに入力すると、合成音声による「歌」が簡単にできるソフト。中でも19年に発売された長い髪の少女のキャラクターを仮想歌手にできるソフト「初音ミク」の登場は音楽シーンに衝撃を与えた。
 J-POPに詳しい音楽評論家の田家(たけ)秀樹(71)は「ボカロの投稿者は、匿名や偽名が前提になっている。だから近年は作り手自身の魅力よりも、曲そのものが面白い作品の方が認められる傾向にあるといえます。『平成』の音楽史は、『初音ミク』の登場という転換点で二分されている」と指摘する。
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 動画投稿をきっかけに才能を開花させたケースは少なくない。21年に、ペンネーム「ハチ」名義でサイト「ニコニコ動画」にオリジナル曲を投稿、その後、メジャーデビューしたシンガー・ソングライター、米津玄師(よねづ・けんし)(27)は順調に活躍の場を広げ、3月にはCDショップ大賞のグランプリも受賞した。
 逆に、プロのシンガー・ソングライターも積極的にサイトを活用するようになった。人気バンド「HY」の女性ボーカル、仲宗根泉(34)は28年春から写真共有アプリ「インスタグラム」に投稿を始めた。自身の素の部分を見せるようになると継続的な読者を示す「フォロワー」が増加。コメント欄にはフォロワーの悩み相談なども寄せられるようになった。そんな弱音や相談に向き合って、友人を励ますように「詩」をインスタで発表。曲を付けて歌う動画も載せると、大きな反響が寄せられた。
 このやり取りがレコード会社の関係者の目に留まり、それらの曲を“再構築”してまとめたアルバム「1分間のラブソング」を発表することに。仲宗根はこう話す。「作詞作曲を仕事だとは思わずに作っていたので楽しかったし、全く苦労しなかった。サイトのおかげで、より、自由に曲が作れるようになったんです」
 素人も玄人も入り交じるネットは玉石混交ともいえるが、プロデュース力を兼ね備えたミュージシャンたちにとってはチャンスの場。音楽家の実力が試される。 (敬称略)