【話の肖像画】群馬県草津町長・黒岩信忠(4)揺らぐ湯気はインスタ映え - 産経ニュース

【話の肖像画】群馬県草津町長・黒岩信忠(4)揺らぐ湯気はインスタ映え

ライトアップされた湯気=昨年12月13日(吉原実撮影)
〈町の大改造に成功したプロジェクトチームが次に目を付けたのは“夜の草津”。東京・六本木ヒルズの演出などを手がけた照明デザイナー、面出薫(めんでかおる)氏を起用し、観光名所「西(さい)の河原公園」のライトアップを完成させた〉
 首都圏からのアクセスが良くなると、草津町も日帰り圏内に入ってきた。由布院温泉(大分県由布市)の入り込み客は年間400万人ほどですが、宿泊客は70万人くらいです。草津町はそれに比べ、圧倒的に宿泊客が多く、宿泊してもらわないと町の経済は回りません。泊まってもらい、街中で夜を楽しんでもらおうと、明かりの演出を始めました。
 その主役となるのが、温泉の「湯気」です。湯気は揺らいでいて、光が当たるとものすごくきれいです。クリスマスになるとイルミネーションは各地にありますが、共通しているのは被写体が動かないこと。揺らぎ、川の流れ、お湯の流れ。ここに目をつけました。湯気は二度と同じ形になることがなく、絶対に再現できない。
 SNS(会員制交流サイト)が普及して、若い子はみんなスマートフォンでいろいろな景色を撮影する。どこにカメラを向けても絵になるまちづくりをし、ライティングは若い女性にものすごくウケました。「インスタ映え」したのだと思う。ユーチューブ(動画投稿サイト)でも中継し、毎日平均で2万回ほどアクセスがあります。
 〈スマートフォンを手に浴衣姿で散策する観光客が増え、温泉街はにぎわいを取り戻した〉
 これまで歴代町長が何かしようとしてもできず、あきらめていました。昔、草津は「山の中の湯治場」とばかにされていたんです。
 駄目になる温泉地は旅館が観光地化する。観光客を旅館の外に出さないといけない。町を五感で感じてもらい、初めて旅行した意味がある。お客さんから見れば、泊食分離スタイルの宿が出てきて、1泊2食の伝統的なスタイルだけでは厳しくなっている。では、どうすればいいか。まちづくりが必要なんです。
 〈56億円もの借金を抱え、財政難に苦しむ草津町を立て直したのは「東京にない景色」だった〉
 日本一の東京を見ることで、地方で何をすべきかが見えてくる。「首都圏を見ずして、地方を語るな」と言うようになりました。地方の人ほど東京に憧れ、東京の「延長」をしようとする。それは大きな間違いです。大東京には絶対に勝てない。
 今の若者は都会に憧れる。なぜかというと、華やかだからですよね。都会はおしゃれで華やかだけど、田舎は交通も不便だし、休みの日に何をしたらいいのか分からないくらいつまらない。だから東京に富と華やかさが集中するわけです。
 私は逆の発想で、東京を勉強しつくし、東京にない集合体を草津町に作った。湯畑をごらんになれば分かると思いますが、ああいう建物は東京にはないですよ。「箱物行政」と揶揄(やゆ)されましたが、私は新しい景色を作った。どこを切り取っても絵になる、独創的な景色を作り上げました。
 景色そのものから、金が生み出されます。当然、採算が合ってますから、十分もうかっています。同時に、その景色が草津全体のレベルを上げ、魅力がどんどん高まっていった。それは決して偶然ではありません。(聞き手 吉原実)