喜劇役者・大村崑(1)「西郷どん」は絣の着物で稽古

話の肖像画
(志儀駒貴撮影)

 〈昭和30年代のテレビコメディー「番頭はんと丁稚(でっち)どん」「とんま(頓馬)天狗(てんぐ)」や「オロナミンCドリンク」のコマーシャルで全国的な人気者になった。昨年秋には旭日小綬章を受章。最近もNHK大河ドラマ「西郷どん」や20年以上続くドラマ「赤い霊柩車(れいきゅうしゃ)シリーズ」で存在感を示している〉

 旭日小綬章。勲章なんて偉いサンがもらうものでしょ。喜劇役者がもらっていいのかなあと思いましたね。

 伝達式は東京・国立劇場でした。受章者は客席に座るんですが、僕は旭日小綬章の代表として他の代表と舞台に立ちました。席を立って、いろんな所に礼をして大臣から勲章と賞状を受け取り、また礼をして席へ戻るという一連の動作が結構大変で、リハーサルのときに他の代表はあまりうまくできなかった。そこで僕は担当者に言ったんです。「床に印を打ってあげたら」と。芝居や番組収録のように、この印へ来たら右へ曲がるとか。喜劇役者ですから、そういうのはお手の物。担当者も喜んでいました。

 そんな僕も、皇居で天皇陛下にお目にかかったときは、さすがに背筋が伸びました。でも、ここでも僕の喜劇人魂がむくっと起き出した。陛下がお出ましになって、僕たち受章者のほうをごらんになったときに一瞬目が合った。そこで、とっさに「ありがとうございます」と声を出さずに口を動かしたんです。すると、陛下は驚かれたのか、再び僕のほうをごらんになったんです。まさかですよ。

 拝謁が終わると、周囲にいた受章者の皆さんから「陛下が二度見されましたよ」「なぜ崑さんだけ?」と冷やかされました。感謝の気持ちを何としても陛下にお伝えしたかっただけなんですけど。

 〈「西郷どん」には、主人公・西郷隆盛の祖父、龍右衛門役で出演した〉

 大河ドラマは初出演でしたが、本当に大事にしてもらいました。最初に、東京で衣装合わせをしたときには、僕一人のためにスタッフ約50人が待っていたのですから。

 でも、そこで衣装やカツラをつけて、最後にプロデューサーから「正座をお願いします」と言われてピンときた。そうか、彼らはこれを試したかったのか。高齢だから、立ち座りに座布団やイスが必要なら困る。でも、僕は全く苦にしない。立ったり座ったりも簡単にできる。元気ならこそ、ですね。

 稽古初日は、白色の絣(かすり)の着物と袴(はかま)、カンカン帽に下駄履(げたば)きで行きました。他の演者さんはジャージーや短パン姿でした。すると皆さん、僕に気を使ったのか、2日目から全員浴衣姿に変わりました。撮影中にトイレに行きたいと言ったら、スピーカーを通じて「龍右衛門さんが出られます。開けてください」と、仰々しいの何のって。出演は1~7話だけでしたが、もう少し出たいと思いましたね。(聞き手 豊田昌継)

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【プロフィル】大村崑

 おおむら・こん 昭和6年、神戸市生まれ。本名・岡村睦治。神戸市立第一機械工業学校(現・市立科学技術高校)卒業後、キャバレーのボーイを経て、司会者の大久保怜に弟子入り。32年、北野劇場の専属コメディアンとなる。テレビのコメディー「やりくりアパート」「番頭はんと丁稚どん」「とんま天狗」で全国的な人気に。劇作家の花登筐(はなと・こばこ)らと劇団「笑いの王国」を設立し、座長を務める。テレビドラマ、舞台、コメンテーターなど幅広く活躍する。平成29年、旭日小綬章。