大阪大教授・関谷毅(1) 家庭とテクノロジーをつなげる

話の肖像画

 〈人工知能(AI)や、モノのインターネット(IoT)といった最新の技術を医療現場などで応用するスペシャリスト。「世界で影響力を持つ科学者」として国内外で著名だ。平成27年には、額に貼るだけで脳波の動きを正確に計測する小型センサーの開発を、世界で初めて発表した〉

 人間にとっての最大の悲劇は、脳が病に侵されてしまうことだと思います。

 例えば、アルツハイマー型認知症は記憶力が低下するだけでなく、思考や人格など人間として重要な機能が障害を負う恐れがあります。日常的に、脳波の様子を見て認知症を効率的に予防できたら良いのですが、そんなことをしている方はほとんどいないですよね。「何か最近、様子がおかしいな」と病院に連れて行ったら、認知症と診断されたというケースが多いのではないでしょうか。

 私は、AIやIoTなどのテクノロジーを駆使して食い止めてみたいと思ったのです。

 私の発想は「家庭で簡単にできる脳のセルフケア」です。開発した小型センサーは厚さ6ミリ、重さ24グラムと薄くて軽い特徴があります。柔らかい形状で、額に貼るだけで前頭部の脳波を、大型医療機器に匹敵する高い精度で測定できます。測定はセンサーに搭載されたAIが自動で行い、脳波のデータをIoT技術で病院へリアルタイムに無線送信します。少しでも異常があれば、センサーを装着した本人に伝える仕組みです。

 単に脳波を測り、数値化するだけでなく、図表で分かりやすく可視化し、本人や家族が一目で状態が分かるようにしたいです。まさに脳の翻訳機ですね。この方法なら毎日のように脳の様子を確認できるので、認知症予防にもつながるのではないでしょうか。体温計と同じような気軽さで、脳の状態を家庭で見られる社会を実現できると考えています。

 介護の仕事をしている私の友人からよく、「今は話しかけてほしい」「話しかけてほしくない」といった高齢者の気持ちが分かるようになりたいという要望を聞きます。私の開発したセンサーで脳の状態を可視化できれば、人の感情もつかみやすくなるかもしれません。医療も介護も、人と人が接する現場があります。治療をより円滑にするために、感情をテクノロジーで理解する研究も進めたいですね。

 〈世界トップクラスの囲碁棋士を破った「アルファ碁」など、AIの技術は驚異的な速度で進歩している。技術をどのように人の生活に生かせるかが課題だ〉

 良い技術があっても、大半の家庭がその技術を享受できないのなら何の意味もありません。私は、最先端のテクノロジーと一般の家庭をつなげることを使命にしています。だから、技術をいかに手軽に簡単に使えるかということに最大のこだわりを持って取り組んでいます。(聞き手 板東和正)

 【プロフィル】関谷毅(せきたに・つよし) 昭和52年1月、山口県美祢市生まれ。繊維の技術者である父の仕事で幼少の頃の大半をブラジルで過ごす。宇宙飛行士の毛利衛氏の影響を受けて、物理学や電子工学など学んだ。平成15年9月に東京大大学院工学系研究科博士課程修了。26年4月に大阪大産業科学研究所教授に就任。人工知能(AI)などを活用してインフラを保守する技術や、脳波や妊婦の子宮の収縮状態などを遠隔で診断できる小型センサーを開発。最先端のテクノロジーで医療や社会の課題を解決する取り組みを行う。28年12月、日経ビジネスの「次代を創る100人」に選ばれた。