作家・編集者 末井昭(5) ダメ男の青春記が映画に

話の肖像画
末井昭さん (古厩正樹撮影)

 〈写真家、神蔵美子さんとの再婚後は、幸せに生きるための実用書として「聖書」の教えを実践している〉

 信者ではありませんが、聖書に書かれてあることはスッと腑に落ちる。「男の栄光は1人の女を愛し切ること」という教えに挑戦しようと思っています。美子ちゃんと出会う前は女性に対して嘘をつき、その言い訳を考える生活に疲れていました。今は嘘のない生活の自由さと解放感で幸せです。

 聖書との最初の出合いは実はずいぶん昔です。「写真時代」創刊前年の昭和55年。(親子関係の悩みなどが原因で若い女性が入信、「娘を返せ」と迫る親らとの間でトラブルが起こり、大きな社会問題となった)聖書研究会「イエスの方舟(はこぶね)」の主宰者、千石剛賢さんに関心を持ちました。

 〈やがて騒動は終息。事件性も否定された〉

 その後、千石さんのインタビュー本「父とは誰か、母とは誰か」を読んで、どんどん引き寄せられ、福岡県のイエスの方舟に通い、千石さんの本も出版しました。千石さんは、旧約聖書をもとに「女は男の一部。男は女を受容し愛するという原理を外れると不幸になる」と説くわけです。フェミニストからは反発されるけど、逆に女が一方的に男を愛してひどい目に遭っているケースをたくさん見てきたので、これは真理だと思うんです。ソープ嬢がヒモの男を「あの人私がいないとダメなの」とかいって懸命に貢いで、男はブラブラしてる…とかね。

 不妊治療もしました。美子ちゃんが40歳を過ぎたころに子供を望み出して。体外受精を3回やってもうまくいかず、最先端医療の大学病院に転院したら、不妊カップルが診察に1年待ちで控えている。美子ちゃんもそこでパッと醒(さ)めた。子供のいないことを否定せずに、男と女としての関係性を成熟させていこうと切り替えました。

 自我を抑えて相手のことを心底考えられるようになれたら、それが最高に幸せな状態。料理以外の家事はすべてやっています。

 〈美子さんに出会う前の“ダメ男”だった34歳のときに書いた初エッセー「素敵なダイナマイトスキャンダル」が映画化(冨永昌敬監督)され、17日から公開される。勤務先の工場から夜逃げし、風俗店の看板書きなどを経て、伝説のエロ写真雑誌編集長として奔走する自伝・青春記だ〉

 試写を見て「お前、何やってんだ!」って。こんなの映画にしていいんですかね。自我と現実の落差を呪い、ギャンブルや不倫にうつつを抜かし、タドンが転がるような人生を送っていました。ただね、すごくダメでいろんなことがあったけれど、今考えると全部必然だったような気がするんです。

 〈主人公の末井さんを柄本佑、隣家の青年とダイナマイト心中する母を尾野真千子が好演している〉

 パソコンも携帯電話もない1980年代の雑誌作りが熱っぽく描かれて懐かしい。夫婦で追っかけをしている「銀杏BOYZ(ぎんなんぼーいず)」の峯田和伸くんが友達役で出演してくれたことが個人的にうれしいですね。

 〈現在、「自殺」続編の執筆に追われている〉

 こんなダメ男ですら70歳まで生かされているんですよ。人生はやり直せる。自殺なんて、絶対に思い詰めないで。それを生涯伝えていくことが、僕の使命だと思っています。(聞き手 重松明子)=次回は元バレーボール選手の川合俊一さん