【話の肖像画】作家・編集者 末井昭(1) 母がダイナマイトで… - 産経ニュース

【話の肖像画】作家・編集者 末井昭(1) 母がダイナマイトで…

(古厩正樹撮影)
 〈4年前に講談社エッセイ賞を受賞した「自殺」(朝日出版社)は、自殺者を一人でも減らしたい一心でつづった〉
 誠実な人ほど生きづらい社会になりました。自殺する人の多くは、現代の弱肉強食社会のなかで他人をだましたり、蹴落としたりしてまでして生きたくないと思う人たちなのでしょう。でもね、どんなに大変な状況に陥っても、最後は命さえあれば何とかなります。
 お金の問題で自殺する人は、まじめな人です。僕は、バブルの頃に大もうけしようと投機目的の不動産に手を出しました。でも、買ったときがピーク。バブルは崩壊し、最大3億7千万円の借金を背負いました。売りに出しても購入時の3分の1以下の値しか付かない。2億円以上の借金が残りました。
 その頃は、借金をギャンブルで返そうとして依存症になったり、他人に借金を踏み倒されたり、離婚の慰謝料も発生してお金がなかった。ある銀行の8500万円の借金を、かき集めた300万円でチャラにしてもらえないかと専門家や弁護士に相談しました。銀行に交渉に行く当日、家に毛玉だらけの破れたセーターがあったので「よし! これ着ていこう」と。ボロボロの格好で300万円を差し出し、「これで何とかしてください」と頭を下げたら、担当者が気の毒そうな顔で折れてくれました。
 〈「自殺」には、「死にたいと思っている人は1人で悩まず、周囲にいいふらして“窓”を開けることが必要」とも書いた。しかし、昨年発生した神奈川県座間市の9遺体事件では、被害者が会員制交流サイト(SNS)で発していた自殺願望が“利用”された〉
 SNSで不特定多数とつながっていても、身近に「死にたい」と甘えられる人はいない。人間関係の希薄さが事件の土壌にあると思います。希望が持てない若者が増え、死の軽さが蔓延(まんえん)しています。SNSには良いところもあるけれど、なければ起きなかったかもしれない事件ですね。
 〈自らの原点は母親の衝撃的な自殺だ〉
 岡山県の山奥。貧しい村で育ちました。母は街の病院で療養していて家にはいません。当時「死病」といわれていた肺結核でした。僕が小学校にあがるころ、医者に見放されて村に戻ってきたんですが、自暴自棄になっていたんでしょう。派手に着飾り、隣家の20歳の息子が昼間から家に出入りするようになりました。それがもとで父と大ゲンカの末に家を飛び出し、その男とダイナマイトで爆発、心中したんです。地元に鉱山があり、危険物が入手しやすい土地柄でもありました。母が30歳、僕が7つのときでした。
 突然、母の体がなくなってしまいました。お墓には着物の切れ端だけが入っています。子供心に虚無が芽生えました。(聞き手 重松明子)
 【プロフィル】末井昭(すえい・あきら) 昭和23年、岡山県生まれ。岡山県立備前高(当時)を卒業後、集団就職で大阪の工場に勤務するも、3カ月後に上京。デザイン会社やキャバレーの看板描きなどを経て編集者となり、50年にセルフ出版(後の白夜書房)入社。「ウイークエンド・スーパー」「写真時代」「パチンコ必勝ガイド」など、話題の雑誌を次々と創刊する。白夜書房取締役編集局長を経て、平成24年からフリーに。26年、「自殺」で第30回講談社エッセイ賞を受賞。新作に「生きる」、5月には「自殺」続編が発行予定。著書「素敵なダイナマイトスキャンダル」が映画化され、3月17日から公開される。