タイ警察大佐・戸島国雄(5) 仏の国で警察人生を全うする

話の肖像画
名付け親になった部下の子供と(本人提供)

 〈タイ・バンコクの中心部「エラワンのほこら」で2015年8月、爆弾が爆発し、観光客ら20人が死亡、日本人1人を含む約140人が負傷した。中国新疆ウイグル自治区出身の2被告が計画殺人などの罪に問われ公判中だ〉

 タイ人が爆弾を作るときは多くは威嚇や脅し。でも、あの爆弾は中にベアリングを入れ、大量殺人を目的に作っていた。タイ深南部のイスラム教徒が多く住む地域で作られる爆弾とも起爆装置などが違う。外国人の犯行だ、とすぐに思いました。

 現場は規制線が迅速に張られ、破片をきちんと回収して証拠品とするなど手際がよく、日本の鑑識捜査が浸透したようです。きちんとした検証報告書があれば、現場に行かない捜査官や検事、裁判官も状況が一目で分かります。防犯カメラの映像や目撃者の証言から作られた容疑者のモンタージュも、住民からの情報提供につながりました。タイの捜査技術向上を証明してくれました。

 今も教え子の捜査官からよくアドバイスを求められます。現場に足跡を残さないための靴カバーがなく、コンビニ袋で代用していたころが懐かしく思えます。現場では今も「サイシュブクロ(採取袋)」とか「オイ、ハヤクヤレ」とか、私が使っていた日本語がそのまま使われていて笑ってしまいます。

 〈現在は日本企業も多い、カンボジア国境に近いプラチンブリ県を拠点に、地元警察と麻薬班の追跡捜査などを行っている〉

 現地の日本人たちに、危機管理の講演会も行っています。重要なのは、上からではなく現地の人から学ぶ姿勢と、自分の身を自分で守る意識。日本は2020年に五輪を迎えます。前回(1964年)の東京五輪ではスリが警戒されましたが、今回はテロです。タイには観光警察など外国人を守るための組織もあり、参考になるでしょう。

 タイ全国の署長や副署長たちは、幹部候補だった若いころからの私の教え子です。彼らに子供が生まれると「名前をつけてくれ」と頼まれることもあり、もう十数人につけました。この写真は双子でハヤトとリョウマ、こっちがサチコ。大きい子はもう高校生。子供たちは自身の誕生日にあいさつに来るので、私はいつも祝儀袋を持ち歩いています。かわいくて仕方ない。日本の知人から「タイでそんなに子供を作って」と誤解されるけど、潔白です。

 〈タイで有名になり、東南アジアの周辺国の警察などからも鑑識指導の依頼を受ける〉

 最近はアフリカのウガンダからも警察幹部がバンコクに来て、現地で現場鑑識の実技指導をするよう、要請を受けました。彼らに東洋人が1人交じっていて、聞けば中国の当局者だという。中国はウガンダに立派な警察施設を作って日本製の鑑識機材を導入したが、ノウハウがないから、私に来てくれ、と。自由に指導できるか分からなかったため、「日本の警察に直接依頼すればいいでしょう」とお断りしました。中国のことさえなければ、今ごろアフリカを新天地として、タイと同じように鑑識指導をしていたかもしれません。

 タイにいる間に両親とも他界しました。見舞いに行けず、葬儀にも間に合いませんでした。最愛の妻ももういない。ここ仏の国タイで、天命を全うするつもりです。(聞き手 吉村英輝)=次回は作家・編集者の末井昭さん