落語家・春風亭一之輔(1)驚異的な売れっ子ながら…ずっと「寄席芸人」でありたい

話の肖像画
春風亭一之輔さん(寺河内美奈撮影)

 〈古典落語の枠を外れない“型破り”と言うべきか。斬新なアレンジを巧みに加えた噺(はなし)に会場は爆笑に次ぐ爆笑。昨年1年間の高座は実に930席。一日も休まなかったとしても「1日=2・5席」の計算となる驚異的な売れっ子ぶりだ。不惑を迎えたばかり、赤丸上昇中の若手真打ちの一席…〉

 人気? 運が良かったんです。師匠(春風亭一朝(いっちょう))へ入門したときからずっとそう。ありがたいことだけど、自分に過度の期待はしていないんです。(人気が)ずっと続くことなんてないと思うし、今がピークだと思っているんですよ、ホントに。

 落語はブームなんですかねぇ。確かに寄席は20代、30代の若いお客さんが増えているし、個々に売れている噺家はいると思いますけど、全体的な底上げはできているのかな。ブームって何度も言われてきたでしょう。ホントのブームとは、僕くらいが街を歩いていたら「あー」って指さされたり、サイン求められたりすることだろうけど、今でもフツーに電車乗って、ふらふら歩いていますから。

 〈熱気あふれる高座とは打って変わり、小さな声で訥々(とつとつ)と。シャイ、チームプレーが苦手、毒舌、負けず嫌い…。これだけ忙しいのに芸能事務所に所属もしていなければ、マネジャーもいない〉

 事務所に来ませんか?なんて誰も声掛けてこないしね。ま、誘われても断りますけど(苦笑)。スケジュールは全部、自分で交渉して自分の責任で入れてます。他人に決められるのが嫌なんですよ。仕事は自分で決めたいじゃないですか。マネジャーに任せたらギャラとかで判断するでしょ。別にカッコつけてるわけじゃないけど、条件が悪くても初めて落語を聞く子供たちとか、熱意や誠意を感じる依頼なら行きたい、それが噺家だと思いますね。

 〈昨年、各界の一流のプロを取り上げるNHKの番組に登場して注目を集めた。テレビやラジオ、エッセーの執筆などでも活躍中だが、チャンチャカ、チャカチャカ…で始まる日曜夕方の民放人気演芸番組からのオファーは、まだない〉

 もっとテレビで売れたい? あんまりないですねぇ。目立ちたがり屋だから噺家になったわけで、(番組の)オファーが来たら「いくよ」って感じですかね。もちろん、司会とかドラマとか、いろんなことを勉強したい気持ちはあるし、時間があれば頑張りたい、決してマイナスにはならないとも思いますけど、最終的には落語で生きてゆければいいと思うんです。

 僕は「寄席芸人」です。寄席に出たくて噺家になったんだからずっと、寄席に出ている人でいたい。(今のように)掛け持ちなんかしないで1軒でいいんですよ。1席やってふらっと帰ってゆくおじいさん。あこがれますねぇ。30代はいろんなことがあって長く感じたけどまだ40歳、若手も若手ですよ。これから40年くらい落語ができると思うと楽しくて仕方がありません。(聞き手 喜多由浩)

 【プロフィル】春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ) 昭和53年、千葉県生まれ。日大芸術学部卒。平成13年、春風亭一朝に入門して朝左久、二つ目昇進時に一之輔を名乗る。24年、21人抜きで真打ちに抜擢(ばってき)。古典落語の滑稽噺を中心に、人情噺、新作など持ちネタは200以上。国立演芸場花形演芸大賞など受賞。柳家喬太郎(きょうたろう)、桃月庵白酒(とうげつあん・はくしゅ)との三人会は、5月15日、川崎市の麻生市民館大ホールで。問い合わせは(電)044・989・8548。