【話の肖像画】歌舞伎俳優・松本白鸚(5) これからも“見果てぬ夢”を - 産経ニュース

【話の肖像画】歌舞伎俳優・松本白鸚(5) これからも“見果てぬ夢”を

 〈高麗屋(こうらいや)三代同時襲名披露も2カ月目。2月は夜の部「仮名手本(かなでほん)忠臣蔵 七段目」の大星由良之助役で、孫の新市川染五郎演じる力弥と共演中だ〉
 孫の染五郎は現代っ子で、宇宙人のようです。「いいね」とおっしゃっていただきますが、これがどんな形で歌舞伎の魅力になるか。こうして親から子、孫へと(芸を)受け渡し、人間として繋(つな)がる絆のような感覚は、日本人にしか分からないのではないでしょうか。
 〈自身も父の名跡を継ぎ、気持ちが改まった〉
 襲名前は、これからは“アディショナルタイム(サッカーの追加時間)人生”と言いましたが、取り消します。白鸚襲名で祭り上げられるのはつまらない。もっと何かやってくれるのでは、と期待する方がいる限り、私は舞台に立ち続けます。1月の襲名口上で、新松本幸四郎が「自分の芸が歌舞伎の力になっていると信じ、天に向かって舞台に立ち続けたい」と言いましたが、私の気持ちもそれに近い。白鸚として今まで通り、初一念を貫き通すことが、歌舞伎の力になると信じています。
 〈歌舞伎だけでなく、現代劇とミュージカルの世界でも“襲名”を果たした、と笑う〉
 三代同時襲名と同じように、2人の娘たち(ともに女優の松本紀保、松たか子)にも、私の中ではそれとなく受け渡したんです。
 紀保は英国の演出家、デビッド・ルボーさんに見いだされてデビューし、近年は劇団チョコレートケーキの「治天ノ君」など、小劇場の面白い舞台に出演し、4月には2回目の自分のプロデュース公演を予定しています。私自身、平成9年に演劇企画集団「シアターナインス」を立ち上げ、劇作家の三谷幸喜さんらと一緒に舞台を作ってきましたから、そういう小劇場演劇を継いでほしかった。ミュージカルや歌、テレビなど映像の仕事はたか子に。親として勝手に思っている“襲名”です。自分の仕事を受け継いでくれたのかなあと思っています。
 〈血のにじむ努力を重ね、英米で英語主演を果たした白鸚に対し、娘世代は“ありのまま”の日本語で国境を軽やかに乗り越える〉
 英米で芝居をしたとき、言葉の壁を思い知らされました。映画なら撮り直せますが、舞台は一度出たら2時間しゃべりっぱなし。日本人が世界進出する上で、言葉はネックです。ただ最近、一つの希望を感じたのは、たか子がディズニーアニメ「アナと雪の女王」の主題歌「レット・イット・ゴー~ありのままで~」を日本語で歌った映像が、「言葉の響きがきれい」と世界中で視聴されたこと。日本語の美しさが、海外で受け入れられたのはうれしかった。
 〈襲名直前の昨年末、現代劇「アマデウス」のサリエリ役で29年度、優れた芸術活動を表彰する文化庁芸術祭賞大賞(演劇部門)受賞が決定。27年度も「ラ・マンチャの男」で同大賞を受賞しており、代表作を年々、深化させている〉
 振り返ると右は断崖絶壁、左は奈落の底という道を綱渡りしてきました。でも降りかかった運命から逃げず、歯を食いしばって生きてきた。苦しさを勇気に、悲しみを希望に変えたい。それをお客さまに見せるのが俳優だと思う。そういう心で、これからも白鸚としての人生を生きたい。それが白鸚としての、見果てぬ夢です。(聞き手 飯塚友子)=次回は落語家の春風亭一之輔さん