支払額「自由」も財政難で… 州外の観光客に入場料義務づけ NY・メトロポリタン美術館の葛藤

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多くの観光客が集まるメトロポリタン美術館=アメリカ・ニューヨーク(桐山弘太撮影)

 年間600万人以上が訪れる世界最大級の米ニューヨーク・メトロポリタン美術館が「入場料」改革に乗りだそうとしている。現在は、来館者が自由に支払額を決めることができるシステムを取っているが、財政難を背景に、ニューヨーク市とニューヨーク州在住以外の来館者に入場料を義務づける案が浮上。150年近い歴史を持ちニューヨークの「顔」として親しまれる美術館の入場料をめぐる変化は、世相を映す鏡ともなっている。

 メトロポリタン美術館の入場料の説明は少し分かりにくい。1階ロビーのチケット売り場には、「大人25ドル、シニア(65歳以上)17ドル、学生12ドル、子供(12歳以下)無料」などと書かれているが、その上に「Suggested Admission」(推奨する入場料)とある。3年前に入場料の説明は誤解を招くと提訴され、「支払額はあなた次第です。できるだけ寛大にお願いします」との掲示も加わった。

 つまり25ドルは美術館側が希望する金額で、来館者は自分の支払いたい金額を支払うシステムを取っている。このため「1ドルで鑑賞できる美術館」と紹介する旅行サイトもある。

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、美術館は、この希望入場料制度の廃止を検討。ニューヨーク州とニューヨーク市の市民以外の来館者に対して、25ドルの入場料を義務づけることを目指しているという。美術館の年間運営費3億3200万ドル(約369億円)のうち約8%の2600万ドルを拠出するニューヨーク市のデブラシオ市長も、義務化に前向きと報じられている。

 背景にあるのは、美術館が抱える財政問題だ。2013年以降、特別展などの経費がかさみ赤字に転落。ニューヨーク・タイムズ紙によると、現在、年間の運営費に対し1500万ドルが不足している。今年2月には4000万ドルの赤字で人員削減や特別展の数を減らすなどして経営改善を図ったものの、コスト削減だけでなく収入増が喫緊の課題だ。入場料を義務化すれば年数千万ドルの増収が見込まれるという。

 だが、こうした改革に慎重な意見も根強い。その一つは、芸術作品は公共性が高いという考えに寄るものだ。1893年に制定されたニューヨーク州法では美術館について、「年間を通じて開館し、無料で一般に利用されるべきである」と規定。学生や貧困層は少額しか支払えない分、富裕層が多く支払うというのが、ニューヨークの街に「文化」として根付いていることもある。

 米メディアによると、1880年にセントラルパークに開館したメトロポリタン美術館の入場料は変遷をたどってきた。

 開館から約60年間は入場料を徴収していたが、第2次世界大戦最中の1940年、当時の館長が「世界が危機に陥っている今こそ、美術館は人々の心のよりどころとなる役割を担わなければならない」と無料化に踏み切った。その後、米国経済が停滞し、美術館も赤字に陥った1970年代初めに、希望入場料制度が導入されたという。

 世界各国から訪れる観光客の反応はさまざまだ。オランダから夫(60)と観光に来たマリ・オプデムカムさん(57)は入場料の義務化に「賛成する」とし、「きょうは2人とも25ドルを支払った。私たちはお金を持って観光に来ているので問題はない。美術品を保管、維持するのは大切なことだ。オランダでも美術館の入場料は安くない」と語った。

 インドから4人家族でやってきたディリップ・ジェラムさん(47)は「希望入場料制とは知らなかったので、金額通り支払った。有料になるのは仕方ないけれど、ファミリー割引がほしい」。また、カリフォルニア州の大学講師、マッケンジー・カリオさん(29)は5ドルを支払って鑑賞。「カリフォルニア州でも、地元の人間にはディズニーランドの入場料割引など特典がある。ニューヨーク市が、同じように地元の人に特権を与えても文句は言えない」と話す。

 ニューヨークでは他にも、アメリカ自然史博物館などが同じように希望入場料制を取っている。

 美術館は一般的に敷居が高いとされるが、散歩の感覚で気軽に立ち寄れるのがメトロポリタン美術館の魅力。ニューヨーカーは「敬遠されなければいいけれど…」と美術館の行く末に気をもんでいる。(ニューヨーク 上塚真由)

■メトロポリタン美術館■ 1870年設立、80年に現在地へ移転し公開。パリのルーブル美術館やロンドンの大英博物館と並ぶ世界三大美術館のひとつ。絵画や彫刻などの芸術作品のほか工芸品などに及ぶ200~300万点を展示。