写真集「We are here」馬場磨貴さん 巨大妊婦像が生み出すもの

 
馬場磨貴写真集『We are here』(赤々舎)から

 風景の中にたたずむ裸の妊婦たち。しかもその姿は巨大化して…。馬場磨貴(うまば・まき)さん(43)がこのほど刊行した『We are here』(赤々舎・4000円+税)は、さまざまな風景と妊婦のヌードを組み合わせた写真集。非現実的な情景が、いろいろなことを考えさせてくれる。日常とは何か、出産とは何か、性とは何か…。

 「最初は頼まれて妊婦さんや出産シーンを撮影していたんですが、『妊婦って自由だ』って言う人がいて。私も第1子の時に思いましたけど、誰の目線も気にしないでいい。女であることを求められない。面白い時期でしょう」

 そこで裸の妊婦を街中に配した作品を考えた。「突然街中に立ってて、見た人はびっくりするかもしれないけど、目線も気にしないぐらいの存在感を表現したい」と。

 平成22年から本格的に撮影と制作をはじめたところで、東日本大震災と原発事故が起きた。「私自身、幼児を抱えていましたし、2人目を妊娠していたのを失ってしまって、内側からも外側からも命の不安みたいなものが押し寄せてきた。救いがない、頼るものがない。すっかり自信を失ってしまったんです」

 そんなとき、見上げたビルとビルの間にふと、巨大な妊婦像を思い浮かべたのだという。「ああ、この人に会いたかったんだ。これが私のイメージだ」と思えた。それまで制作していた等身大のサイズでは、妊婦の危うさや不安が強く伝わってしまう部分もあった。巨大にすることで、自分が妊婦に感じていたイメージが正直に出せそうだった。

 「インパクトを求めたわけではないんです。命を抱えている女性に抱きとめられているような感じに自然になった」

 高層ビル群、巨大マンション、ドーム球場、公園…さまざまな風景を撮影してから、「こういう構図にしたい」と妊婦に説明して撮影・制作していった。

 武蔵野美大短期学部油絵科で学び、新聞社の出版写真部勤務を経てフリーのフォトグラファーに。撮影の仕事をしながら作品を制作している。絵画を学んだこともあって、写真を作り込んでいくことに抵抗はないという。

 「気になるのはむしろ、ごまかしが入るかどうか。気を引くためのグラフィックとか、撮る必然性がないものを出すことには拒否反応がある。作った写真だけど、メンタル的にはドキュメントに近いですね」

 タイトルの「We」は、素直に「妊婦と子供」という意味でつけたそうだが、誰もがみな、かつて母の胎内にいたことを思えば、意味はもっと広がる。「here=ここ」とはどこか。鑑賞者の数だけ答えがある。(篠原知存)