なにもかもが贅沢だ! アストンマーティン DBS スーパーレッジェーラ・ヴォランテ試乗記
いや、そうではない。電子制御技術の発達したこんにち、エンジン・パワーを必要に応じて絞ればいいだけのことである。一瞬のスキッドはドライバーを楽しませるエンタテインメントなのだ。もしも何事も起きなかったら、725psも900Nmも単なるカタログの数字に過ぎなくなってしまう。日常にスリルをもたらす、観客参加型の演劇的空間、しかも自然を取り込んだ野外劇場! 実質、乗員ふたりのためのウルトラ贅沢な。
117psと200Nmもパワー&トルクが増えているのに、ファイナルのギア比はDB11の2.703:1から2.93:1へ、加速重視になっている。DB11のヴォランテはV8しか設定がないので、ここはクーペ同士でスペック上の乾燥重量を比較すると、DB11が乾燥重量1770kgなのに対して、DBSスーパーレッジェーラは1693kgへと80kg弱もの軽量化を達成している。これがイタリアのカロッツェリア、トゥーリングの代名詞であるスーパーレッジェーラ(superleggera=イタリア語で「超軽量」)を名乗る所以だ。

ちなみに、トゥーリング本来のスーパーレッジェーラ工法は、細い鋼管を組んで骨組みとし、それに薄い軽金属のパネルを貼り付けてボディをつくる。DBSスーパーレッジェーラは、アルミ押出材を接着剤でくっつけてプラットフォームとしているのはDB11と同じだけれど、DB11の外板がアルミなのに対して、DBSはカーボンを使っている。高いわけだよ、車両価格3796万185円。
スポーティだけどすこぶる快適
ヴォランテは、幌の仕組みを搭載するなど、オープン化に対する対応をしているため、乾燥重量は1863kgと、クーペに較べて170kg重い。車検証の車両重量は2010kg。しかるに、その重さはまったく意識させない。途方もないパワーとトルク、ほぼ50:50の前後重量配分、ロック・トゥ・ロック2.27回転のステアリング(電動アシスト付き)等、絶妙なチューニングによるものだ。

ストロークを縮めて排気量を6.0リッターから5.2リッターに縮小し、2基のターボチャージャーで武装したV型12気筒エンジンの回転フィーリングも、ドライバーが抱く軽さの感覚に大きな影響を与えている。カーボン製のプロペラシャフトも駆動系のスムーズさに貢献しているだろう。低速から、雷鳴を轟かせながら、ホイールベース2805mmのこの大型GTを、蝶のように軽く走らせる。
アクセルを深く踏み込むと、3000rpmからガオーッと一段と男性的な歌声を張り上げ、そこから回転が積み重なるに連れて、二重奏、三重奏のハーモニーとなって音量が増す。楽器はほとんど用いていない。勇ましい男声合唱団による、厚みのある咆哮。アクセルをオフにすると、ガボガボ、いかにも“ガソリン燃やしています”、というレーシング・エンジンさながらの音を発する。
