M8、それは8シリーズの真価を味わえるクルマだ
ボディサイズはM850iとさほど変わらない。けれども、大きく口を開けたバンパーグリルや4本出しの大きなマフラーエンド、大径タイヤから見える巨大キャリパー、などなど、大大大づくしで明らかにノーマルモデル(といってもMパフォーマンスモデルだが)とは異質のオーラを放っている。なかでもコンペティションという625psのグレードはグリルやモールがグロスブラックに塗られていて、いかつい。路面への四肢の構えからして違って見えるのだ。
試乗会場はアルガルベのサーキットとその郊外路だった。スーパーカーの試乗会でよく訪れる地でもあったから、M8の実力のほどを知るには最適の場所でもあった。
試乗車はM8コンペティション。クーペだ。スペックはM5と同じ、とはいえ、パワートレーンの搭載位置ははるかに低いし、そもそもクーペだから重心位置も低い。サーキットではより楽しめるに違いない。

8シリーズの威厳を感じる性能
はたして、M8は、加速性能の素晴らしさのみならず、キレ味のいいスポーツカーであることもサーキットで証明してみせた。先導するのは同じM8を駆るプロドライバーで、習熟ラップから容赦なくペースを上げていく。4WDモードをノーマルにさえしておけば、後輪が耐えきれなくなると同時に前輪へと力が配分されるから、極めて安全に速いラップを刻んでいける。

けれどもそれじゃ楽しくない。M5と同様に完全なFR(後輪駆動)にすることもできるのだが、それをやってM5でエラい目に遭ったことがある。インストラクターも絶対に使うなと念を押した(そんなモード、誰が使うの?とツッコミたくなる。プロ専用だ)。そこで4WDスポーツを選んだ。
これが実に楽しい。タイトで逆カント気味のコーナーでは、面白いようにオシリが滑る。それに合わせて軽くカウンターステアを切れば、“はい、楽しかったでしょう?”とばかり、即座に体制を(クルマが)立て直し、進むべき方向へと導いてくれる。素早く、安全に、しかも楽しく。クルマの制御が見事であることと、プロではないドライバーがサーキットで高性能マシンを操って楽しみを覚えるということは、決して背反しない。高価なクルマである。安心して楽しめたほうが良いに決まっている。その先を目指す人は、レーシングカーでも買ってトレーニングすればいいだけの話だ。