フェアレディZの存在価値とは? 50周年アニバーサリーモデル試乗記
いや、むしろそちらのほうが向いているというべきか。ただし、大舵角では反力が弱くなるのでドライバーが自分でステアリングを戻さなければいけなくなる。些細な話であるが、軽く年代を感じさせるポイントではある。
グランド・ツアラー型のエンジン
フロントに搭載されるVQ37VHRエンジンは、もはや最新世代とは言いがたい3.7リッターV型6気筒自然吸気エンジンであるが、1500~4000rpmでしっかりとしたトルクを生み出してくれるうえ、静かでスムーズ。
反対に、6000rpmを越えると、まわり方が息苦しくなってバイブレーションも増え始める。したがって、ここでも低中回転域でゆるゆると走らせるのが得意のグランド・ツアラー型といえる。



試乗車のギアボックスは6速マニュアル。操作力は微妙に重めであるが、シフト・ストロークが短めなうえ、ゲートも明確で小気味いいギアチェンジが楽しめる。しかも、スウィッチひとつでシフトダウン時、自動的にエンジン回転数をあわせてくれるブリッピング機能もついているので、かつて懸命に練習したヒール&トーをいまさら思い出す必要もない。
クラッチは、感触が平板なため最初はつながるタイミングがわかりにくいかもしれないが、踏力自体は重くないので多少の渋滞路であれば苦にならない。「久しぶりにMTに乗ってみるか!」という向きにはうってつけかもしれない。



古くたっていいじゃないか
ただし、インターフェイス系は明確に古い。ナビのディスプレイは小さく、スイッチ類のデザインや操作方法もなんとなく古くさい。だからといって実用性が不足しているわけではないが、最新の操作系になれきっている若い担当編集者はこれだけでクルマ自体が少々古いと思ってしまったそうだ。
でも、これはこれでいいじゃないかと思う。乗り心地は悪くなく、直進性は良好で、エンジンも低回転域であれば十分に力強くてスムーズ。つまりロング・クルーザーとしての資質は十分に備えているわけで、引退した団塊世代が長年連れ添った奥様と一緒に小旅行に出かけるという用途にはぴったりのような気がする。タイトな2シーターのキャビンも、ぜいたくなクルマに乗っているという感慨を覚えさせてくれるはずだ。



さて、冒頭のエピソードに話を戻すと、あるとき、件のフェアレディZを洗車機に入れる仕事が私のもとに転がり込んできた。
まさに千載一遇のチャンスである。私は喜び勇んで、でもそのことが誰にもばれないように注意しながら運転席に腰掛け、Zを発進させた。

しかし、微低速でステアリングを切ろうとしてもビクともしない。当時の私はそれなりにノンパワーアシストのクルマに乗り慣れていたが、それにしてもフェアレディZの操舵力はケタ違いに重かった。巨大さゆえに堅牢なことで知られたL20型直列6気筒エンジンの重さを、私はそのとき間接的に思い知ったような気がした。
いまから40年ほども昔の話である。
文・大谷達也 写真・安井宏充(Weekend.)

