サッカーと移籍金――誰のために“移籍金”はあるのか? - 産経ニュース

サッカーと移籍金――誰のために“移籍金”はあるのか?

 最近ではクリスチアーノ・ロナウドや武藤嘉紀のチーム移籍に伴い、話題となっている「移籍金」とはなにか? スポーツジャーナリストの了戒美子が解説する。
ユベントスに移籍したクリスチアーノ・ロナウド。現地でも大人気だ(Photo by Valerio Pennicino - Juventus FC/Juventus FC via Getty Images)。
 毎年、欧州主要リーグが休みになる夏のあいだ、フットボールファンたちの楽しみは移籍市場の動向だ。大物が動くのか動かないのか、どこに動くのか、いくらで動くのか。今年はW杯があったことから、新星たちはどんな動きをするのか。試合そのものよりもスペクタクルを感じ、ワクワクする人もいるに違いない。
 4年前に遡ってみると、W杯で日本を苦しめたコロンビアのハメス・ロドリゲス(当時23歳)はフランスリーグのモナコから、スペインのレアル・マドリードへ大出世を果たした。この時は、大会前に移籍が決まっていたわけではなく、W杯中の「レアル・マドリードでプレーするのが夢」という本人の発言や、その活躍ぶりによってビッグクラブを手繰り寄せた。W杯は品評会的な、あるいはアピールチャンス的な意味合いを持つ場でもあるのだ。
 ちなみに今年の日本選手を見てみると、大迫勇也がブレーメンへ、乾貴士がベティスへそれぞれ大会前に移籍を決めた。これは、W杯を経ても評価額がそう変わらないという代理人の読みもあってのことだが、結果的にビッグクラブ移籍を求めて過度なアピールをW杯でしないで済んだこと、つまりはチームプレーに徹することができたのではないかと思う。環境の安定が彼らを主力として活躍させ、16強進出につながった一つの要因だと思う。
 これに対し移籍が決定しきっていなかった武藤嘉紀はやはり、アピールに走った印象を個人的には受けた。もちろんアピールすることは悪いことではないのだが。
 この夏の最もおおきな移籍の話題はクリスチアーノ・ロナウドだろう。9シーズンプレーしたレアル・マドリードを離れ、イタリアのユベントスへの移籍を、W杯中に発表した。移籍金は1億ユーロ(手数料込みで1億1700万ユーロ)と言われており、これはイタリア・セリエA史上最高額だという。
 ただし、この夏リバプールからバルセロナに移籍するコウチーニョの1億2500万ユーロを下回る。また、昨年夏にネイマールがバルセロナからパリ・サンジェルマンへと移籍した時の2億2200万ユーロの約半分だ。それでも、彼の移籍金は歴代4位という。
 
ちなみに、ほぼ同額の移籍金だったのはガレス・ベイル。2013年、英・トットナムからレアル・マドリードに移籍した時の1億100万ユーロだった。ここ数年、高騰の一途をたどる移籍金だったが、ロナウドの移籍金を聞く限り、ひと段落したかのように思ったが、年齢的なこともあるのでなんとも言い難い(金額Transfermarkt.deから引用。もちろん推定)。
 「移籍金」という単語にピンとこない人もいるかもしれない。それは日本国内の移籍では基本的に生じないからだろう。移籍金とは新しく獲得するクラブ(移籍先)が旧所属クラブに払う違約金のようなもの。
 仮に4年間の契約を結んでいても、1年か半年ほど契約期間を残して移籍するパターンが多く、“契約期間が残っているのに移籍してしまうことへの違約金”と、捉えるとわかりやすいかもしれない。もちろんこれは「違約金」ではなく「移籍金」で正当なものだから、契約期間が終わって移籍金なしで次へ移るのに比べれば、旧所属クラブに対し、選手たちは金銭的な面で“恩”を示すことができるのだ。なお移籍金は選手にとっての評価のようなものであり、高いほど選手としての価値があると見なされる。
 移籍金をめぐるエピソードは多い。たとえばシャルケ時代の内田篤人は「契約を更新したのは、移籍金をお世話になったクラブに残すため」といった言い方をした。
 日本では、最初に加入したクラブで選手生命を終えることに一種の美学、美徳のようなものがあると思うのだが、その感覚は非常にドメスティックだ。子供時代からバルセロナで過ごしたイニエスタですら、力の衰えを感じてもそこで選手生命を終えることなく日本にやってきたのだ。おそらく日本でなくても、選手としてプレー出来るのであれば中東や中国、アメリカへも行っていたかもしれない。
現在はバイエルンで活躍するコロンビアのハメス・ロドリゲス(Photo by Matthias Hangst/Bundesliga/DFL via Getty Images )。
 この夏、俗に言う“移籍市場”が閉まるまでの約1カ月のあいだ、私はフランス優勝メンバーのひとり、ベンジャマン・パヴァールの動向に注目したいと思う。くるくるヘアの色白、文学青年のような佇まいのサイドバックだが、現在はドイツ・シュツットガルトの所属だ。シュツットガルトは今季のCL(UEFAチャンピオンズリーグ)、EL(UEFAヨーロッパリーグ)に出場しないため、パヴァールにとっては小さく弱すぎるかもしれないが、メルセデスという巨大なスポンサーを持つ安定したビッグクラブだ。
 そんな彼が今、ドイツ国内でも「バイエルンに行くのではないか?」など、騒動になり始めている。パヴァールの始動は8月14日とのことで、それまでは本人抜きの外野がわいわいと噂を楽しむことになるだろう。それもまたフットボールの楽しみのひとつである。
了戒美子 りょうかい・よしこ 1975年生まれ。サッカーをメインにスポーツ全般を取材。ドイツ・デュッセルドルフを拠点に興味次第でどこへでも。「スポルティーバ」(集英社)、「ナンバー」「ナンバーウェブ」(文藝春秋)などに寄稿。