クラウンよ、若返りは本気か?――新型クラウンの存在意義

 

 購買年齢層の若返りを狙う新型クラウン。トヨタの目論見を、ユーザーは受け入れることが出来るのか? 試乗した日下部保雄がクラウンのあるべき姿、方向性を探る。

文・日下部保雄 写真・花村英典

 トヨタの苦悩は伝統ある車種の購買年齢が高くなっていることだ。クラウンのみならずカローラも平均購買年齢は70歳代、アクティブに使ってもらおうと開発されたカローラ・フィルダーもいつの間にか60歳代になっている。

 コロナの後継であるプレミオ・アリオンも同じか、さらに高くなっているのは想像に難くない。長年クラウンを愛用するユーザーも、年齢に応じて、より小型のクルマへの乗り換えが進み、クラウンから離れていく傾向にあり、販売台数は減っていくのが目に見えている。もちろん、これまでもトヨタが黙って指を食えて観ているわけもなく、常にその年齢を引き下げようと新型クラウンの企画を実施してきた。

 ほかのモデルを見ると、新しいカローラはハッチバックがメインとなり、これまでヴィッツベースであった国内専用モデルから方向転換した。実はこの新型、欧州向けに開発したオーリスと同じモデル。コンサバでドメスティックなカローラから一気に舵を切ったのだ。トヨタにとって重要モデルであるカローラも大きな変革点を迎え、これと並行しクラウンも大きなチャレンジをすることとなった。

 さてクラウンは言うまでもなくトヨタブランドの頂点に立つ国内専用モデルだが、そのポジションが逆にクラウンの悩みの種だった。国内だけでペイするにはかなりの台数を販売しなければならず、漸減していくクラウンの台数を維持するには大きな努力が必要だ。実に国内マーケットのみで存在出来るのは、軽乗用車だけになってしまった現状をみると理解できる。

 クラウンはトヨタのトップエンドであるだけに、充実した装備とクオリティ、そして厳しくなる安全対応に合わせた巨額なコストがかかる。かといって日本に合わせた使いやすいサイズは海外で受け入れられず、販路拡大もできないでいる。つまり、単独で国内専用モデルであるクラウンを作るには、メーカーの心意気(!)とテクニックが必要になるのだ。

 新しいクラウンはレクサスLCから採用する最新のGL-Aプラットフォームをベースに、クラウン専用に起こした。トヨタのクルマ作りの新しい考え方であるTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)がもたらしたプラットフォームの完成度の高さはプリウス以来定評があり、FR用GL-Aプラットフォームも同様に評価は高い。

 クラウンはこの専用プラットフォームを用い、日本にマッチしたサイズを構築したうえで、快適な乗り心地、そして何よりも高い安定感と運動性能を得て、クラウンにこれまでとは違った価値観を与える。

 以上を踏まえた上で、ユーザー側から見てみよう。クラウンのユーザーは本当にコンサバだろうか。振り返ってみるとクラウンの歴史は革新の歴史でもあった。初代は輸入車が大勢を占めるなか、日本発の乗用車専用高級車と打って出て、革新的なクルマを求めるユーザーから支持された。その伝統は綿々と受け継がれてきたのではないだろうか。

 また、新しい技術はクラウンから採用することが多く、すべては静粛性やクラウンであるがための乗り心地であり、ここに共感するユーザーも圧倒的に多かった。しかし前述のように先細りは目に見えており、新しいクラウン像が見えないとユーザーの新陳代謝もおこらない。

 そこで、勝負に出たのが2003年登場の12代目クラウン、通称ゼロクラウンだ。大胆なモデルチェンジで今も多くのファンを擁する運動性能を重視した1台。ゼロ・クラウンはそれまで拘ってきた後席の乗り心地などはほとんど眼中になく、従来のクラウン像からはかけ離れていた。しかしシンプルなデザインとハンドリングの良さは一気に購買年齢を引き下げることに成功し、中古車も人気が高い。ユーザーは見ているのだ。ではそれまでのユーザー層は離れていったかと言えばそうでもなく、クラウンのハンドルを握り続けることになった。

 15代目となる新型クラウンは、プロトタイプに試乗した限り、圧倒的なハンドリングの良さにくわえ、ゼロクラウンでは実現出来なかった爽快な乗り心地も手にしたように思う。当時の飛び跳ねるような乗り心地とは無縁で、時代が求める上質な乗り心地だ。特にハンドリングは、欧州車とも、これまでのクラウンとも違うアプローチで煮詰めたことで、新たな“クラウン像”を作り上げることに成功したように見える。

 ただし割り切った部分もあり、これまでのクラウンが持っていた細部へのこだわりや高級感にはそれほど注力されていないように見える。それでもクラウンと呼ぶにふさわしい貫禄があるのは凄い。

 スリークで厚みのあるエクステリアは威厳や迫力より、流れるような風格を大切にする。これも大きな変革だ。デザインはもちろん、クルマへの経験が深いユーザーにとっても納得のいく走りと乗り心地、世界トップレベルの先進安全技術、充実したコネクティビリティ、トヨタの誇る信頼性の高さ、国土にあったボディサイズなど新しいクラウンはプレミアムクラスに大きなインパクトを与えることになるだろう。次のクラウンを探していた層はもちろん、輸入車への流れも変えることが出来るかもしれない。

 クラウンの存在意義を見直したクルマ作りは、ユーザーにも変革を求めているように思える。“若返り”に必要なポテンシャルを十分秘めた1台であっただけに、平均購買年齢の今後に注目していきたい。