観客動員数は最盛期の半数以下に…「F1」人気低迷の日本、復活の鍵は?

 

 毎年3月になるとフォーミュラ1(F1)の新シーズンが開幕する。例年オーストラリアで幕を開け、11月末の中東アブダビまで世界各地で激しい戦いが繰り広げられる。日本の鈴鹿は10月開催だ。FOXだESPNだBBCだといった巨大グローバルネットワークが巨額の経費をかけて追いかけ回し、TV中継ではF1は相変わらずグローバルスポーツの上位に鎮座する。F1を主宰するリバティメディアが発表した2017年のTV視聴者数は14億。2016年と比べると6.2%もの増加だ。また、主要SNSによるF1フォロワーは1190万人に達する。TV視聴者の多い国はドイツを筆頭にブラジル、イタリア、イギリス……といったところだが、日本は上位20カ国にも入っていない。

F1第2戦バーレーンGPはセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が開幕2連勝を飾った。僅差で勝利を逃したのは2位のボッタス。3位ハミルトンとメルセデスが続いた。トロロッソ・ホンダのガスリーは4位でゴール。ホンダはF1復帰後の最高位を更新した。Photo: REUTERS?/?AFLO

 現在でこそ日本におけるF1人気はこのように低迷気味だが、かつてはトップクラスの観客動員数、そしてTV視聴率を誇った。もっとも観客動員数が多かったのは2006年の36万1000人。翌年から日本グランプリの舞台が富士スピードウェイに移るということで、鈴鹿サーキット最後のF1を惜しむ人たちが集まった結果だといわれている。結局、富士スピードウェイのF1開催は失敗に終わり、3年後には鈴鹿サーキットに戻ってくるのだが、一度離れた観客は戻ってこなかった。その結果、ズルズルと観客の数は減り、昨年(2017年)の観客動員数は13万7000人。最盛期の半数にも満たなかった。

 TV中継は数年前から地上波を離れてペイテレビに移っており、これもF1人気低迷に拍車をかけている。放映形態は各国似たような状況だが、無料なら見るがわざわざお金を払ってまで見る気持ちはない、というのが日本のF1ファンである。もちろん、日本のF1人気低迷の理由はほかにも多々指摘されてきた。日本人ドライバーの不在、日本チームの不在、日本の自動車メーカーの不振、プロモーション素材としての価値の低下、高いチケット代、価値観の多様化……。

 しかし、わが国におけるF1人気低迷の大きな理由はなんといっても日本人ドライバーの不在だろう。不在というより、トップクラスの日本人ドライバーが過去一度も出てこなかった現実だ。1987年に中嶋悟がF1に行って以来30年を経ても、誰ひとりF1で優勝を経験していない。1年間に20レース行われるとして30年で600レース。中嶋以来19人もの日本人ドライバーがF1を走っているが、表彰台の中央に立った日本人は一人もいない。この現実を突きつけられると、F1と日本の間に横たわる溝があからさまになる。

 ホンダの常勝時代には、日本なくしてなにがF1ぞ、と日本人F1ファンの誰もが考えていたはずである。これが大きな勘違いだった。F1にとって自動車メーカーはやって来ては出ていくもの。F1をF1たらしめる要素ではなかった。では、F1をF1たらしめる要素とは? それは先にも書いたドライバーである。過去の歴史を紐解いてみればよく分かる。ヒストリーブックの最初に記されているのはドライバーであり、F1はドライバーを中心に形成されている。この原稿を書いている4月7日、世界中のSNSに一人のドライバーが頻繁に出てくる。いまから50年前のこの日に亡くなったジム・クラークだ。世界中のレースファンが彼の死を悼んで投稿している。50年前に亡くなった彼に対して。そして、日本にはジム・クラークはいないのだ。これは決定的な欠落点といえる。

 では、将来日本から世界を驚かせる実力を持ったドライバーが誕生することを期待できるのかといえば、はなはだ寂しい答になってしまいそうだ。これまでも、現在も、ホンダをはじめとする自動車メーカーは将来のF1ドライバーを目指す若者をヨーロッパに送り込み、多額の資金をかけて育成に励んできた。しかし、一向に成果は出ない。となると、ドライバーに頼らざるをえないF1人気復活はもはや期待できないのかもしれない。

 スポーツはやはりアスリートが主役であり、モータースポーツではドライバーが主役である。モータースポーツの頂点にあるF1に辿り着いても、そこで優勝を飾ることのできるドライバー、タイトル獲得の可能性を持ったドライバーでなければ世の中の流れを変えることは難しい。何もかもが沈みかかっている日本。F1人気の沈下を防ぐことができる才能を備えたドライバーが出てくることをせつに期待する。

 赤井邦彦

 1951年、岡山県生まれ。モータージャーナリスト。自動車雑誌で翻訳、取材の嘱託業務を行い、25歳で渡英。モータースポーツ、自動車産業の取材を開始する。F1、ル・マンなどを取材し、日本やイギリスの雑誌を中心に精力的に記事を寄稿する。