今なお色褪せぬホンダの初代「NSX」 極上の1台を試乗する

 

 初代ホンダNSXで箱根のワインディングロードを走っていると、助手席に腰掛けた編集部のIが問わず語りにこう言った。

全長×全幅×全高:4430mm×1810mm×1340mm、ホイールベース:2530mm、車両重量:1320kg、乗車定員:2名、エンジン:3179ccV6DOHC(280ps/304Nm)、トランスミッション:6MT、タイヤサイズ:フロント215/40R17/リア255/40R17、価格:1035万7000円(当時)

 「こんなに走りがいいと、この30年間の自動車の進歩ってなんだったんだろうと思っちゃいますね」

 以前、似たような疑問を抱いたことのある私は、この問いかけに対する明確な答えを持っている。過去30年間、自動車の進歩は安全性と環境性能の改善にそのほとんどが費やされたといって間違いない。この間、自動車のパッシブセーフティとアクティブセーフティは飛躍的に進歩し、自動ブレーキに代表される運転支援装置は軽自動車にまで普及した。環境性能も同様で、燃費が大幅に改善されてCO2排出量が減り、窒素酸化物やパーティキュレートなどの排出物は劇的に減少した。それと同時にクルマはさらに大きくなって室内は広々とし、豪華な装備も盛り込まれ、静粛性や快適性は向上しているのだから、この30年間で自動車が大きく進歩したことは疑う余地がない。

駆動方式はMR(ミッドシップ・リア・ドライブ)のレイアウトを採用。北米ではアキュラ・ブランドで展開した
2001年までの前期モデルはリトラクタブルヘッドライトを採用した

 それらを認めたうえでなお、Iの指摘にはうなずくしかなかった。

 1989年に発表、翌年発売された初代NSXは、日本初のミドシップ・スーパースポーツカーであるだけでなく、世界的に見ても先進的なスポーツカーだった。オールアルミモノコックボディと軽量高出力なVTEC V6エンジンを組み合わせ、世界トップクラスのパフォーマンスを獲得しただけでなくABS、トラクションコントロール、エアバッグなどを装備した。当時のスーパースポーツカーが苦手としていた視界や快適性の問題もクリアし、オートマチック・ギアボックスや電動パワステを早くから用意した。つまり、単なる速さだけでなく日常的な使い勝手や安全性などにも深く配慮した、ある意味で時代を先取りしたスーパースポーツカーだったのである。

 ちなみに、あのマクラーレンF1を手がけた天才デザイナーのゴードン・マーレイはその開発の過程で世界中の名だたるスポーツカーをテストしたところ、当時のポルシェフェラーリ30点前後に留まるなか、NSXにのみ70点という異例の高得点を与えた。その後、ポルシェフェラーリでさえNSXのような日常性、快適性、そして安全性を追求するようになったことは皆さんもご存知のとおり。つまり、NSXはスーパースポーツカーの歴史を変えたといっても過言ではないのだ。

ゴルフバッグを2セット収納可能なラゲッジ。ミドシップ・カーでは異例の154Lの容量を確保した
フロント部分はスペアタイヤや補機類などを搭載する

 改めてNSXの走りを見つめ直すと、やはり乗り心地が当時のスーパースポーツカーとしては傑出していいことがわかる。フロント:215/40R17、リア:255/40R17という、現代の基準で見ても立派なサイズのタイヤを無理なく履きこなしており、足回りがばたついている印象は皆無。この乗り心地にはアルミモノコックボディの優れた剛性も貢献している。

 また、試乗車には(株)ホンダアクセスが開発したModuloブランドのスポーツサスペンション(スプリングとダンパーのセット。ダンパーは減衰力可変式)が装着されていたが、その名前とは裏腹にむやみに足まわりを固めることなく、しなやかにホイールをストロークさせて高いロードホールディング性と快適な乗り心地を実現していた。さすがホンダの純正パーツを長年作り続けてきたホンダアクセスだけあって、クルマの本質を見抜いたセッティングが施されていると感じた。

 ハンドリングは、最新のスーパースポーツカーの基準からすればややおっとり傾向だが、個人的にはこのくらい穏やかなほうが高速コーナーでの安心感が際立って好ましいと思う。ステアリングフィールは全般に洗練されたものだが、限界近くまで攻め込めばフロントの接地性がすっと薄くなるのが伝わってくるので、タイヤと対話しながらのスポーツドライビングを楽しめるはずだ。

本革巻きステアリングホイールはエアバッグ付き
チタン削り出しのシフトノブはタイプS専用品

 エンジンの吹き上がりも最新モデルのほうがシャープだろうが、このNSX タイプSに積まれたV6 3.2リッター自然吸気ユニットはシャーンと高回転まで素直に回りきるエンジンのフィーリングが絶妙。空冷時代のポルシェ911を思い起こす味わい深い回り方をする。

 ロータス・スーパー7とほとんど長さが変わらないシフトレバーがもたらすフィーリングも絶品だ。ただしスーパー7よりも操作に必要な力は軽く、正しい回転数と正しい操作を心がければ、シフトレバーはそれこそ吸い込まれるようにして次のギアに入っていく。私は、ホンダくらいシフトフィールの心地よさにこだわっている自動車メーカーは世界中探しても滅多にないと考えているが、そのなかでもNSXのギアボックスは白眉といっていい仕上がりだ。

 レカロにしては珍しくクッションが厚めのシートは掛け心地も上々。視界は、自分の足下が見えるんじゃないか? と思うほど良好なので、一般道を走っていてもストレスがたまらない。

フルオートエアコンを装備。試乗車には㈱ホンダアクセスが展開する「ギャザズ」ブランドのナビが備わっていた
タイプS専用のレカロ社製フルバケット電動シート

 全長×全幅×全高=4430mm×1810mm×1160mmのコンパクトボディと1320kgの軽量設計がもたらすフィーリングはライトウェイトスポーツそのもの。新型NSX3基のモーターの力を借りて“軽さ”を演出しようとしているが、初代NSXはなんの仕掛けもなしに、純粋に素性のよさだけで新型をしのぐ軽快さを手に入れている。

 これほど心地よく、そして走らせて痛快なスーパースポーツカーは空前にして絶後かもしれない。いまなお初代NSXが人気を集める理由も納得だ。