PR

エンタメ エンタメ

【鑑賞眼】歌舞伎座「五月大歌舞伎」 作為を感じさせない菊五郎

 全く作為を感じさせず、サラサラと水が流れるように自然だが、実はすごい舞台をやっていた-と後から気づかされるのが、「仮名手本(かなでほん)忠臣蔵 六段目」の尾上(おのえ)菊五郎である。5月の東京・歌舞伎座の第2部で、今回15回目という塩冶(えんや)家家臣の早野勘平を演じている。古典だが、今そこで事件は起き、勘平は死んだ、と感じさせる舞台だ。

 「忠臣蔵」は暮れに通し上演され、47人の赤穂浪士が亡君の仇を討つまでを、1日がかりで見たものだったが、コロナ禍で今月の第2部は、「道行旅路の花聟(はなむこ)」(通称「落人(おちうど)」)と六段目。それぞれ配役も異なる。

 「落人」は、原作の人形浄瑠璃にはない、歌舞伎ならではの1幕。勘平(中村錦之助)は主人、塩冶判官が殿中松の廊下で高師直(こおのもろのお)に刃傷に及んだ際、おかる(中村梅枝=ばいし)との情事にふけっていたおわびに、切腹しようとする。それをおかるに止められ、妻の実家、京都・山崎へ落ち延びる、いわば逃避行の舞踊化だ。

 憂いを秘め、おかるに引っ張られる錦之助に色気があり、古風な美しさをたたえた梅枝と並ぶと、絵のよう。2人の沈んだ心とは裏腹に、背景は富士山に桜、菜の花に彩られ、清元の音楽も華やかだ。後半、滑稽な侍、鷺坂伴内(さぎさかばんない=中村萬太郎)との立ち廻りもにぎやかで、悲劇の前のある種、清涼剤である。

 「六段目」は、五代目と六代目菊五郎が磨き上げた「音羽屋(おとわや)型」の勘平を当代が受け継ぎ、存分に堪能できる舞台。妻の実家で猟師になった勘平が、誤って義父を撃ち殺し、懐の金(おかるを身売りした金)を取った-との疑念を義母おかや(中村東蔵)から持たれ、勘平自身、義父殺しをしたと早合点し、切腹に至る。

 義母の手元にある財布と、自分の懐にある血の付いた財布にさりげなく視線を落とし、同じ財布と気づき、義父殺しを“確信”する様子といい、手にしたキセルを落とす動揺ぶりといい、実に自然で、全く作為を感じさせない。

続きを読む

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ