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漫画「進撃の巨人」9日完結 村上春樹作品に通じる「普遍性」

9日発売の「別冊少年マガジン」5月号の表紙
9日発売の「別冊少年マガジン」5月号の表紙
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 世界で人気を博している諫山創(いさやま・はじめ)さんの漫画「進撃の巨人」(講談社)が、9日発売の「別冊少年マガジン」で完結する。累計発行部数は1億部を超え、ハリウッド映画化も進行中。面白さと普遍性を兼ね備えた物語がどう幕を下ろすのかが注目されている。「読み終わった後、『もう一度最初から読み返したらどんな気持ちになるんだろう』とワクワクする。そんな最終回だと思います」。担当編集者の川窪慎太郎さん(38)はこう語る。 (文化部 本間英士)

1000年語り継がれる

 快進撃の始まりは15年前にさかのぼる。ある夏の日、当時23歳の新入社員だった川窪さんが、当時19歳の諫山さんからの電話をたまたま取ったことがきっかけだった。デビュー前の諫山さんの才能を見抜いた川窪さんは、上司や周囲に猛プッシュ。平成21年の連載開始後、先読みできない展開などが話題を集め、25年のアニメ化で人気が加速した。

 「あんまりハードルを上げると諫山くんから何か言われそうだけど、『進撃の巨人』は1000年語り継がれる作品だと僕は思っています」

 海外人気の高さも特徴だ。最新話の発表後、英語や中国語、アラビア語などさまざまな言語で、感想がインターネット上を行き来する。講談社によると、同作は世界21カ国・地域で出版。電子書籍は約180カ国・地域で配信され、全世界の累計発行部数は1億部(電子版含む)を超えた。

 なぜここまでヒットしたのか。川窪さんは「巻を追うごとに面白さの質が違ってくる」点を指摘する。

 「初期は『巨人が人を食う』などのおぞましさやインパクト。受けた衝撃を周りの人に伝えやすかった。その後、サスペンスやミステリーの要素あり、政治に関する話あり。バトル漫画の定番である、大切な人が一人ずつ減っていく…というドラマもありました」

 物語は、諫山さんが連載当初から思い描いた通りに進んだという。ただし、連載当初は20巻以内で終わると思っていた。現在は33巻まで刊行。キャラクターが増えたことが主な理由だ。

 「それだけ彼ら、彼女らの人生を描かないといけない。僕はこの作品を『総合漫画』、つまり世の中のことをすべて描いている漫画だと思っています」

「一番面白いのは今」

 物語は後半から色彩を急速に変えていく。衝撃を受けた読者も多かっただろう。海外の反響も大きかった。

 「諫山くんは最初から『後半の展開を描きたかった』『人を傷つけたい』と言っていました。傷といっても、いい意味でショックを受けるとか、心をえぐられる、という意味です。彼自身、思春期の頃に『マブラヴ オルタネイティヴ』(PCゲーム)などに傷つけられた、と言っていますから。今度は作り手として、受け手を傷つける。それが彼の創作意欲のひとつでした」

 11年半にわたる長期連載。川窪さんは、「単行本でいうなら20巻~30巻あたり」が苦しかったと振り返る。最初のブームが一段落し、物語が新たな展開を始めた時期だ。

 「売り上げが落ちてきたんです。自分がこんなに面白いと感じている『進撃の巨人』の価値と、世間の客観的評価である売り上げが合わないギャップ。苦しかったです」

 転機となったのが、連載10周年の一昨年に行った、ほぼ全巻を無料で読めるという思い切った試みだった。「苦肉の策だった」というが、一度は離れた読者が多く戻ってきた。売り上げも回復したという。

 「『進撃の巨人』が一番面白いのは今なんだよ」「途中で読まなくなった人は、本当にもったいない」-。川窪さんは、長年の読者が発したこれらの言葉に救われたと振り返る。

 「僕は『進撃の巨人』ほど宣伝を頑張った作品はこの世に存在しないと自負しています。(読者に)読んでもらう、という行為がいかに大変かを感じ続けた日々でした」

村上春樹との共通点

 同作が世界で人気を集める理由について、川窪さんは、世界的作家である村上春樹さんの作品との“共通点”を挙げる。

 「老若男女問わず、世界の多くの人が村上作品を読み、『これは自分の物語だ』と思う。それが村上さんのすごさです。村上さんは、(心の)奥底の部分で人間はつながっていて、自分の小説はそこにあるものをすくい上げてくる、などと言っています。すくい上げてきたものは皆にとって共通することで、それがいわば『普遍性』です。僕は諫山くんの隣にいて、彼からはそれに近いものを感じますし、それができる世界でも限られた作家の一人なんだな、と思います」

 この指摘は、今月1日に村上さん自身が母校・早稲田大の入学式で行ったスピーチの内容と重なる。

 「僕らは普段、これが自分の心だと思っているのは、僕らの心全体のうちのほんの一部分にすぎない。残りの領域は手つかずで、未知の領域として残されています。物語は、僕らの意識がうまく読み取れない心の領域に、光を当ててくれます。言葉にならない僕らの心を、フィクションという形に変え、比喩的に浮かびあがらせる。それが、僕ら小説家がやろうとしていることです」(村上さん)

 多くの村上作品には「羊男」をはじめとした謎の人物や、地下の闇に住む邪悪な魔物「やみくろ」など、一言では言い表せない存在や設定が登場する。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の「壁」を思い出す人も多いだろう。

 川窪さんはこう続ける。

 「もう一つ言えば、物語には『言葉にできないもの』、『名状しがたいもの』が必要です。それが『進撃の巨人』でいえば、『巨人』や『壁』かもしれない。なぜ巨人が生まれたのか。巨人は人間にとって何かの象徴なのか。これは自分自身なんじゃないか…。世界観やキャラクターなどを自分なりに考え、当てはめていく。そうすると、それは皆にとって『自分の物語』になるんです」

 「だからといって、巨人や壁を登場させればいい…といった単純なものではありません。諫山くんの中には、彼にとっての『巨人』や『壁』があるのでしょう。それがあるのが、作家(漫画家)の条件です。ただし、彼もそれを言葉にできないからこそ、漫画として描くのだと思います」

青春を共有

 「早く終わろうね」。連載中、これが2人の合言葉だったという。

 「僕は諫山創という漫画家が、『進撃の巨人』と同じくらい素晴らしい漫画を1本でも2本でも描ける作家だと確信しています。若く、創作意欲がみなぎっているうちに、次回作に行くべきだと思っていました」

 「諫山くんが先日、『進撃の巨人』を描いたこの期間は、自分にとっての青春でした-と言っていましたが、自分もそれに近い感覚です。楽しい時間でした」

 3月30日。主人公・エレンの誕生日に、川窪さんは最終回の原稿を受けとった。自身のツイッターで<諫山くん、11年7か月お疲れ様!>とツイートしたところ、世界各地のファンが祝福や感謝の言葉などをツイート。22万超の「いいね」が集まった。

 「『進撃の巨人』のすごさは、読み返すたびに感想が違うところ。読み返すと仕掛けや伏線があるのに気づきます。もう一つ、自分の置かれている環境によっても感想が異なってくる。幸せなとき、不幸なとき、悩みがあるときで感想が全然違うんです。読み終わった後、『もう一度最初から読み返したらどんな気持ちになるんだろう』とワクワクする。そんな最終回だと思います」

「2010年代を象徴する漫画」

 「日本マンガ全史」(平凡社新書)などを手掛けた澤村修治・淑徳大教授(出版文化論)の話「数字や影響力から言っても、2010年代を象徴する漫画であり、日本漫画の歴史に残る作品だ。2010年代は、自分たちの未来を奪う現代社会に対する怒りや閉塞(へいそく)感、絶望感が世界的に高まった時代だった。だからこそ、若者を中心とした多くの読者が、『巨人』という不気味な存在に強い恐怖や憎悪を覚えながらも戦いを挑む主人公たちの姿や、破壊的感情に共感したのだと思う。漫画という枠に留まらず、後年の人々が2010年代という時代を論評するうえで欠かせない作品である」

進撃の巨人

 諫山創さんのデビュー作。平成21~令和3年、「別冊少年マガジン」で連載。高さ50メートルの壁に囲まれた世界で暮らす少年エレンが、壁の外から突如現れた巨人たちと戦うストーリー。最終34巻は6月9日刊行予定。講談社の漫画アプリ「マガポケ」でも読める。

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