PR

エンタメ エンタメ

【鑑賞眼】PARCO劇場「藪原検校」 タブーなき異種格闘技の魅力

杉の市(市川猿之助、右)は師匠の女房、お市(松雪泰子)を寝取り、次々と悪事に手を染める(加藤幸広撮影)
杉の市(市川猿之助、右)は師匠の女房、お市(松雪泰子)を寝取り、次々と悪事に手を染める(加藤幸広撮影)

 異種格闘技のよう、というのが第一印象である。

 それもそのはず、井上ひさしが生み出した、江戸時代の希代の悪党「杉の市」の一代記に顔をそろえたのは、市川猿之助、三宅健、松雪泰子、川平慈英ら、「芸能」の世界でもさまざまなバックグラウンドを持つ出演者たち。昭和48年の西武劇場(現・PARCO劇場)の初演から47年の時を経て、30代の若き演出家、杉原邦生の手で現代に再構築された物語は、今風の俗っぽさをまとい、観客の心をざわつかせる。

 一昨年、「スーパー歌舞伎II」を猿之助と共同で演出した杉原は、“異種”の融合がうまい。例えば、杉の市が生きたのは江戸時代、十代将軍徳川家治から十一代家斉にかけての時代だが、舞台に出現させたのは現代の渋谷を思わせる落書きされた壁。ギターを手に舞台を盛り上げる益田トッシュが作曲したテーマ曲は、エレクトリックでポップだ。何より浮世を吹き飛ばすスカッとした明るさがある。衝撃のラストの“余韻”は、これまた渋谷を思わせる雑踏の音にかき消される。

 「こうであらねばならぬ」を取っ払い、異なる出自を持つ俳優たちはスタイルを崩さずぶつかり合った。「善悪の基準は時代や環境によって変わる」と語る猿之助の杉の市は、人間味にあふれ、悪人を極めつつもかわいさが感じられる。松雪のお市はさすがの艶っぽさ。直情的に杉の市を追い詰めていくさまは、不気味さより哀れさが前面に出た。

 代わりに不気味さを引き受けたのが、三宅の塙保己市だ。声質のせいか淡々とした口調が浮き上がって聞こえ、杉の市と対峙(たいじ)する場面では、「俗」を徹底して排除する潔癖さに説得力を持たせた。杉の市と保己市の平行線の話し合いは、現代社会のSNSで繰り広げられる「決して交わらない同士の会話」のようだ。

 東京五輪パラ組織委の後任会長に女性をという意見が「逆差別」と言われるように、現代の差別の構造は複層的になり、境目もあいまいになりつつある。「悪」もまた然り。果たして本当の悪人は誰なのか、井上ひさしの鋭い視線は、杉の市を“消費”する盲太夫(川平)や客席にも向けられる。

 あくの強い題材だが、さまざまなものがタブーなくそこに「存在」する、そのことに意味があると言わんばかりの杉原の演出は、井上戯曲の持つエネルギーと普遍性を鮮やかに浮かび上がらせた。ダイバーシティ、とはやりの言葉を使うのはたやすいが、つまるところ、異種であることは強く、実に魅力的だ。

 3月7日まで、東京・渋谷のPARCO劇場。愛知、石川、京都公演あり。問い合わせはパルコステージ(電)03・3477・5858。(道丸摩耶)

 公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ