【鑑賞眼】「ニューイヤー・バレエ」新国立劇場 無観客ライブ配信

この作品のタイトルにもなっているペンギンとは絶滅してしまった鳥類のオオウミガラスを指す。見た目がペンギンに似ているため、そう呼ばれたという。
お盆を持った“ペンギンウェイター”がくるくる踊りながら登場する愛らしい場面から始まる。ところが途中で様子が一転。動物たちが倒れ込んだりし、何やら雲行きが怪しくなると、何が起きているのか理解できない様子で“ペンギン”が一瞬、舞台上で立ちすくむ。
そして、最後は旧約聖書に登場する「ノアの箱舟」を思わせる船には乗らず(乗れず)、舞台に“ペンギン”がただ一羽だけ取り残され、頭を羽根で掻きながら、悲しそうに踊るシーンとなる。絶滅してしまったオオウミガラスの運命を象徴しているかのようで、胸が締め付けられた。
広瀬碧の“ペンギン”はどこまでも愛らしく、もの悲しかった。その姿が今も目に浮かぶ。米沢唯や奥村康祐、福岡雄大らプリンシパルたちも被り物を付け、独創的な踊りでそれぞれの動物を演じていた。バレエダンサーたちの表現力と作品の持つメッセージ性にも感動した。次回はぜひ「ペンギン・カフェ」を劇場で見てみたい。
昨秋、新国立劇場バレエ団芸術監督に就任した吉田都は「団員の表現力強化に力を入れていきたい」と話していた。吉田の薫陶を受け、団員たちがより一層、表現力を身に着け、ますます深みのある舞台を創造してくるのではないか。そんな期待を抱かせる舞台だった。(水沼啓子)
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