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【鑑賞眼】「Op.110 ベートーヴェン『不滅の恋人』への手紙」 楽聖生誕250周年にふさわしく

舞台の上、1台のピアノを中心に物語は進んでいく(田中亜紀撮影)
舞台の上、1台のピアノを中心に物語は進んでいく(田中亜紀撮影)

 今年は“楽聖”ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの誕生から250年。本作は、このメモリアル・イヤーにふさわしい作品だ。

 生涯独身だったベートーヴェンだが、愛をささげた女性がいた。「不滅の恋人」アントニー・ブレンターノ。革命の嵐が吹き荒れるなか、身を売るように、ウィーン貴族の家から実業家のもとへ嫁いだ。音楽が結んだ2人の関係はやがて引き裂かれ、封印された。しかし、宛名のない彼の手紙だけが永遠の愛を伝える。「交響曲第9番」の“歓喜によせて”の大合唱も「ピアノ・ソナタ第31番Op.110」も、彼女への献身から生まれた芸術なのだ-。

 劇中にベートーヴェンの姿はない。観客は、ただ1台のピアノを取り囲んで展開される周囲の人間…アントニー(一路真輝)やその夫のフランツ(神尾佑)、弟子のフェルディナント(田代万里生)らのやりとりや独白から、彼の姿を思い浮かべるのみだ。まるで1冊の伝記を読んでいるかのように舞台は進む。

 原案は小熊節子、演出は栗山民也、脚本は木内宏昌、そして音楽と演奏は新垣隆。舞台上のピアノから紡がれる流麗な音色が素晴らしい。心穏やかな時も、苦悩の時も、そっと登場人物たちに寄り添い、ときに導くようにして物語を支える。きっと楽聖にとっても、音楽とはそういう存在だったのだろう。

 不幸な結婚の話であり、実らなかった恋の話であり、心身を削って愛と芸術に向き合った1人の男の足跡の話である。アントニーを気高く一路が演じ、既婚のハンガリー貴族で彼の子供を身籠ったジョゼフィーネの熱情を前田亜季が演じた。泥沼の人間関係のなかにあって、ただ師を敬愛し、足跡を追うフェルディナント演じる田代の明るさは一服の清涼剤だった。最終盤、苦悩はすべて音楽に昇華され、第九の大合唱やピアノソナタにつながっていく。

 ベートーヴェンは1770年12月16日生まれ。公演期間中にちょうど生誕250周年を迎えた。

 26日まで、東京都千代田区のよみうり大手町ホール。問い合わせはサンライズプロモーション東京、0570・00・3337。(三宅令)

 公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。

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