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能狂言に着想「現代能楽集X 幸福論」 2つの悲劇から見る“幸せ”

「イメージとして道成寺は火、隅田川は水と対照的な2作品」と話す演出の瀬戸山美咲
「イメージとして道成寺は火、隅田川は水と対照的な2作品」と話す演出の瀬戸山美咲

 能狂言の謡曲に着想を得て、新しい作品を生み出すシリーズの最新作「現代能楽集X 幸福論」が29日から、世田谷パブリックシアター・シアタートラム(東京都世田谷区)で上演される。安珍と清姫伝説をもとにした「道成寺」と、さらわれたわが子を求める母の悲しみを描いた「隅田川」を下敷きに2作品で構成。演出の瀬戸山美咲は「全く雰囲気の違う2つの作品を通して、幸せの在り方や自身の価値観を考えるきっかけになれば」と話す。(三宅令)

■「悲劇、現代にもある」

 道成寺は、瀬戸山が脚本も担当した。「能の『道成寺』で最も気になったのは、親は毎年訪ねてくる山伏について、女性に『あの人と結婚するんだ』と言い聞かせていて、女性はそうするんだと思い込んでいたこと。山伏は何も知らなかった」という。拒否された女性は毒蛇となって山伏を焼き殺した。「ずっと親の言うことに従って生きていた子が、自分なりにあがいて引き起こす悲劇。現代にもあるな、と思った」と話す。

 幸福論の道成寺では、医学部4年の男子大生、清史郎(相葉裕樹)が主人公。父(高橋和也)、母(明星真由美)ともエリート属性で上昇志向が強く、恵まれた家庭だが、全員がさらなる成功を求めた結果、悲劇が起きる。

 「最初、主役を能と同じく女子にしようと思っていたが、男子の方が『他人より優れている方が偉い』という古い価値観に縛られて生きているのではないか、と思った」と振り返る。実際に起きた東大生5人による女子大生への強制わいせつ事件なども参考にした。「満たされているはずなのに、他者を害する。はき違えた“男らしさ”はどこから来たんだろうか。親の価値観の影響は大きいと思う。着地点が決まっている能の枠組みの中なら描けると思った」

■家裁調査官と万引き少女

 隅田川は、脚本が長田育恵。「こちらは質感が全然違う物語。登場人物の気持ちに乗っかっていくように、丁寧に演出したい」と話す。

 幸福論の隅田川は、不妊治療中の家裁調査官(瀬奈じゅん)が、万引をした少女(清水くるみ)を担当することから始まる。子供というものをめぐって、要介護の孤独な老女(鷲尾真知子)の運命も交差。彼女たちは川のほとりで夜明けを待つ。

 「不妊治療など、理解のない人には感情移入しにくいところだとは思う。個々人の事情の話だけど、全体の話として捉えられたら」といい、「コロナ禍でもそうだが、世の中が困窮すると若い女の子や高齢者にしわ寄せがくる。一番大変な人に手が差し伸べられていない」と指摘する。

■劇場でしか見られない

 能の「隅田川」では、母親は探し歩いた末に、自分の子が亡くなっていたことを知る。嘆き悲しむが、子供の幻とは再会することができた。

 初めて見たとき、涙が出たという。「なんて優しい話なんだと思った。現実はままならなくても、物語ではファンタジーで救える」

 俳優陣とじっくり話し合いながら舞台を作っていくのがスタイル。「登場人物に実在感があるように。特に今回は2作品で6人しか出演しないので、1人1人が役を分かっていないと難しい」と話す。

 コロナ禍が収束する気配は遠く、演劇業界には厳しい状況が続く。「絶対に無理はしないでほしいけれど、劇場でしか見られない表現を、人間が狂う姿を見に来てほしい。鬱屈した世の中だからこそ、劇場で感じるカタルシスもあるはず」と力を込めた。

 「現代能楽集」シリーズは、能楽和泉流狂言方、野村萬斎が企画・監修。萬斎が芸術監督を務める世田谷パブリックシアターで、平成15年にスタートした。今公演は12月20日まで。問い合わせは同チケットセンター、03・5432・1515。

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