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【漫画漫遊】ダメな大人の魅力的な日常 「A子さんの恋人」(近藤聡乃著 KADOKAWA) 

(C)近藤聡乃/KADOKAWA
(C)近藤聡乃/KADOKAWA

 この数年来、某出版社の人から「この漫画いいですよ」と強く勧められていた。1回ならともかく、自社の新刊でもないのに3回も。そこまで言うのなら…と、10月の最終巻刊行を機に読んだところ、物語の魅力と深さに引きずり込まれてしまった。

 主人公はニューヨークから東京・阿佐ケ谷に引っ越してきた29歳の漫画家、A子。彼女の周りには2人の男がいる。1人は美大生時代の恋人で、3年前に別れたはずのA太郎。もう1人は3年間の渡米中に出会った米国人のA君。身も蓋もなくいえば二股である。A子が選ぶのは愛されキャラのA太郎か、それともクールでシニカルなA君か-。

 正直に言うと、最初は良さがよく分からなかった。A子は優柔不断でA太郎と別れきれず、A君との関係も放置したまま帰国してしまう。口の悪い友人のK子、U子からは「クソ女」と言われる始末。登場するほぼ全員が性格に何かしらの「難あり」である。

 ところが読み進めるうちに、各人物の過去と新たな一面が次々と描かれる。男2人がA子にひかれた理由が分かるし、登場する全員の意外な人間臭さに感情移入してしまう。過去と現在。東京とニューヨーク。A太郎とA君…。2つの軸の間で揺れ動くA子は過去の記憶を反芻(はんすう)しつつ、呪縛から逃れようともがく。

 主な舞台は阿佐ケ谷周辺と谷根千(やねせん)、ニューヨーク。たわいもない会話や街角の風景など細部までリアルで、群像劇としての完成度が高い。その一方、学生時代を引きずったダメな大人たちの魅力的な日常が最後までゆるく描かれ、読んでいてある意味ホッとする。古代ギリシャ人が悲劇を見てカタルシス(浄化)を得たように、人間関係に悩みがちな現代人は自分よりもっとモヤモヤした関係性に触れることで、ある種の安らぎを得られるのかもしれない。

 流行中の『鬼滅(きめつ)の刃』が直球勝負の本格派だとすれば、本作は緩急と変化球で勝負する技巧派。純文学の薫りを漫画で表現するとともに、漫画界の多様性と奥深さを実証する作品だ。人に3回勧めたくなる気持ちが今ならよく分かる。全7巻。(文化部 本間英士)

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