【鑑賞眼】Kバレエ カンパニー、熊川哲也版「海賊」 若手ダンサーの進境著しく
Kバレエ カンパニーの芸術監督、熊川哲也が手掛ける舞台は、いつもドラマチックだ。男性ダンサーにスポットライトを当てた演出も際立つ。とくに「海賊」全2幕は野性味あふれる海の男たちの物語であるため、しなやかな筋肉を存分に生かした男性ダンサーたちの勇壮な踊りが、引き立つのは当然かもしれない。
コロナ禍で5月から延期されていた「海賊」が今月、ようやく上演。カンパニーにとっては1月の「白鳥の湖」以来の公演となる。「海賊」全7公演は、日替わりで主要キャストが入れ替わった。
16日のマチネーの舞台は、主要な役にプリンシパルがキャスティングされていなかった。すべてファースト・ソリストもしくはソリストが配役。若手ダンサーたちの確かな技術力とカンパニーの未来を感じさせる舞台となった。
昨夏、ソリストとして入団したばかりの関野海斗(せきの・かいと)が熊川の十八番でもあるアリ役を演じたほか、メドーラ役の毛利実沙子(もうり・みさこ)、グルナーラ役の戸田梨紗子(とだ・りさこ)、ランケデム役の栗山廉(くりやま・れん)は、いずれも初役で臨んだ。またコンラッド役は杉野慧(すぎの・けい)と、カンパニーをこれから担っていく若手が勢ぞろいした。
熊川版「海賊」の特徴は、なんといっても海賊の首領に仕える忠実な奴隷、アリのキャラクターだ。ほかの演出よりも男気にあふれ、どこか陽気というか、太陽に向かっていくような“向日性(こうじつせい)”を感じさせる。
以前、キーロフ・バレエ(現マリインスキー・バレエ)の「海賊」(1989年4月上演)をDVDで鑑賞したが、アリ役はルジマートフだった。奴隷という立場をわきまえ、寡黙でどこか悲壮感を漂わせながら、官能的に踊る姿が目に焼き付いている。
アリのキャラクターだけではない。熊川版「海賊」はほかの演出と違い、プロローグで民間商船を襲う場面が登場したり、メドーラとグルナーラが姉妹という設定になっていたり、より演劇性が加味されている。