元宝塚トップスターが“エスコート”する「KING&QUEEN展」英国王室の肖像画約90点が来日
「ロイヤルファミリー」の呼称で親しまれ、公務のみならずファッションやスキャンダルなど私生活までが世界中の注目を集める英国王室。1000年に及ぶ歴史を彩ってきた王や女王の肖像画など約90点を集めた「ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING&QUEEN展━名画で読み解く 英国王室物語━」が上野の森美術館で開かれている。肖像専門美術館ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリーの改修期間を利用し、これまで外部にほぼ貸し出されなかった貴重な所蔵コレクションが来日。芸術的な魅力に加え、作品を生み出した時代背景や運命の物語が人々を惹(ひ)きつけている。
来場者を華麗な王室の世界へと導く音声ガイドには、元宝塚歌劇団トップスターの明日海りおさんが初めて挑戦した。昨年11月に退団し、女優として新たな道へ踏み出した彼女が印象に残った作品のエピソードをピックアップし、演技に込めた思いなどをセリフとともに紹介する。
再婚のため宗教改革、妻を処刑…強烈な絶対君主ヘンリー8世

「私が国王だ!言うことを聞かぬものは皆、首をはねよ!」
威厳のある男役の声で明日海さんが演じるのはヘンリー8世。1509年に戴冠して以降、数多くの臣下に加え、妻までも処刑した絶対君主だ。肖像画の鋭い目つきやがっしりした体格からも、冷酷さや暴力性がうかがえる。
その傍若無人ぶりを表すキーワードが「宗教改革」「6人の妻」。最初の王妃キャサリンは流産・死産を繰り返し、残った子どもは王女のみ。王子にこだわるヘンリー8世は女官アン・ブーリンとの再婚を望むが、カトリック教会は離婚を認めていない。そこで国王自らが首長を兼ねる英国国教会を成立させる。
つまり自らの再婚願望をかなえる手段を国の宗教改革にまで発展させたことになる。結果、晴れてアンとの再婚を果たしたが、王子が生めず処刑。その後も離婚や処刑を重ね、47年に死去するまで計6人の王妃を娶った。
明日海さんは「絶対的な権力をふりかざし、妻にも容赦がない。いまでは想像もつかないような暴君が存在し得たことが、強烈に心に残りました」と驚きの表情をみせる。音声ガイドではヘンリー8世に加え、キャサリンやアンらのセリフも1人で演じた。「宝塚は開演や終演のアナウンスをトップスターが務めます。演目や役柄によって声の雰囲気を変え、演じ分けていた経験を生かせたかな」と話した。
最長在位を誇る現女王エリザベス2世

「私は全生涯をこの国に捧(ささ)げます」
21歳の誕生日にこう宣言したのは、94歳のいまも英国の象徴として伝統を守る現女王エリザベス2世。1952年に即位し、在位は68年を超えて最長記録を更新している。即位を記念した肖像作品(白黒写真に着彩)は優雅な美しさや柔らかな母性、秘めた決意がにじみ、新たな女王像への期待が映し出されているよう。
実際、これまで精力的に海外を訪れて王室外交に尽力し、若年層の支援や自然保護など慈善活動にも熱心に取り組んできた。動物好きとして知られ、なかでも馬への愛情は深く伝統の英国ダービーに例年出席していたほど。近年は、公務を引き継ぎ公の舞台に姿を見せる機会は減ったが、新型コロナウイルスの感染が広がった今年4月に「団結すればこの困難は克服できる」とビデオメッセージで国民に呼びかけ、変わらぬ存在感を示した。
多彩な活動や在位の長さを反映し、本展には女王の肖像画や写真が数多く並ぶ。明日海さんは「即位してきりっとした雰囲気や、目を閉じた写真(※)など作品の背景を知ると表情がすっと心に入ってくる。収録では描かれた当時の状況を思い浮かべ、(セリフの)人物が若ければ声に張りを付けるなど年齢を意識して演じました」と役作りを振り返った。
※本展で展示されるクリス・レイヴァン撮影《エリザベス2世(存在の軽さ)》
処刑された唯一の英国王チャールズ1世

「余は最後まで英国の末長き平和を心から祈っている。余は今、現世の王冠を捨て、不滅の王冠をかぶる。永遠の命を念じて」
ヘンリー8世の宗教改革は約1世紀を経た17世紀にも、国内対立の火種を残した。その犠牲となったのが、1649年に処刑台で斬首されたセリフの主チャールズ1世だ。「王室の人々の威厳や品位を表現しつつ、処刑台に立ったときなどシチュエーションを思い浮かべて収録に臨みました」と明日海さん。
チャールズ1世は父ジェイムズ1世から王権神授説をたたきこまれ、25年に即位すると絶対王政を信じ、議会を無視して課税するなど強圧的な政治手法が反発を招いた。カトリックの王妃を持つチャールズ1世の国王派と、議会派の中心を形成するプロテスタントの清教徒(ピューリタン)の対立で内乱が勃発。これが清教徒革命となり、最終的に逮捕されたチャールズ1世は裁判で「専制、反逆、殺人、国家への裏切り」の罪で死刑となった。
統治は失敗したが、芸術のパトロンと(後援者)しては大きな功績を残した。代表的なのが、フランドル出身の画家ヴァン・ダイクを宮廷に招き入れたことだ。

今回展示されている画家が描いた《チャールズ1世の5人のこどもたち》は、中央に立つ将来のチャールズ2世が犬の頭に手を置く構図が人気を博し、多くのバージョンが制作されるなど後世に大きな影響を与えたといわれている。
収録を終えて「脈々と受け継がれてきた覚悟や誇りを感じた」
収録直後の明日海さんに感想を聞いた。
━音声ガイドに初挑戦しました
「宝塚退団後、(声の仕事として)映画の吹き替えを担当したことはありましたが、全く違いました。吹き替えは俳優の演技と違和感がないよう声に気持ちをのせる作業でした。今回は、自分自身がすてきな絵画や王室の物語を紹介するつもりで、一緒に展示を楽しんでいる感じでした」
━英国王室に対するイメージは変わりましたか
「現代では想像がつかない王もいましたが、後半になると記憶に新しい故ダイアナ妃やウィリアム王子、キャサリン妃も登場します。王室の歴史をたどることで、覚悟や誇り、大きな愛情が脈々と受け継がれてきたんだということを実感しました」
━新型コロナの影響で芸術を取り巻く環境は変化しています
「身体的にも精神的にもストレスがかかりやすい状況だからこそ、芸術の持つ力を知ってほしい。もともと好きな人はもちろん、興味がなかった人も新たな世界の扉を開くことで、この状況から解放されるひと時になるのではないでしょうか」
━鑑賞や音声ガイドの活用のポイントは
「もともと、とても貴重な作品ですが、音声ガイドを聞きながらでしたら、更に理解を深めていただけると思います。来場者をエスコートして、一緒に見て回っている気持ちで収録したのでぜひ足を運んでください」
⇒「KING&QUEEN展━名画で読み解く 英国王室物語」公式サイトはこちら
1985年6月26日生まれ、静岡県出身。3歳からバレエを習い、中学3年で宝塚歌劇団の舞台を観て心を奪われる。宝塚音楽学校に入学し、2003年に宝塚歌劇団に入団。14年から花組トップスターを務め、昨年11月に退団し、女優として舞台や映画の吹き替えなどに挑戦している。
会場:上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
会期:2021年1月11日(月祝)まで ※会期中無休
開館時間:10:00~17:00(金曜は20:00まで、1月1日〈金祝〉は17:00まで)
入館料:一般1800円、高校・大学生1600円、小中学生1000円
土日祝は一般2000円、高校・大学生1800円、小中学生1200円
※未就学児無料
※日時指定制(事前販売/当日販売もあり)詳細は公式HP(www.kingandqueen.jp)へ。当日券情報は、公式HP及びTwitter(@kingqueen_info)で随時更新。
問合せ:03-5777-8600(全日8-22時) ハローダイヤル
【音声ガイド情報】
語り:明日海りお(女優)、特別出演:デヴィ・スカルノ(本展サポーター)。収録時間約35分。貸出価格は1人1台につき600円(税込)。展覧会公式HP(https://www.kingandqueen.jp/guide/)でサンプルボイスが試聴可能。
【これを見ればわかる!「KING&QUEEN展」VTR公開中!】
提供:フジテレビジョン