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【東京特派員】過ぎゆく夏へ「穂高よさらば」 湯浅博

長野県松本市の上高地
長野県松本市の上高地

 夏も終わりになると、決まって思い出す懐かしい風景がある。

 一つは、借りた跳人(はねと)の衣装で参加した青森の「ねぶた祭」だ。北国のエネルギーが爆発する勇壮な祭りで、はねた後に夜道をトボトボ友人宅へ帰る寂寥(せきりょう)感がなんとも言えなかった。

 短い夏の終わりを盛り上げて、来る冬への備えに入るけじめなのだろう。それが、今年は武漢肺炎のせいで中止せざるを得なかったのは、地元の人々には無念であったに違いない。

 秋風が吹きだすと、今度は北アルプスの山々を思う。真っ青な空と峻険(しゅんけん)な岩、色づき始めたナナカマドが織りなす涸沢(からさわ)カールの凜(りん)とした風景だ。奥穂高岳を背にした涸沢は、岩登りに熱中していた若い頃の根城であった。

 1カ月ほどの夏山合宿が終わって、天幕撤収の前夜には過ぎ行く日々を山の歌で締める。

 「穂高よさらば また来る日まで 奥穂に映ゆる茜雲(あかねぐも)」。少し口ずさむだけで、ジーンと胸にせまるものがある。この後に「返り見すれば遠ざかる まぶたに残るジャンダルム」と続く。山仲間と囲んだキャンプファイアの残り火が、いまにも消えゆくような感覚が残る。

 あのなじみの歌が、作曲家、古関裕而の手によるものであることを最近まで知らなかった。月刊誌に掲載された古関裕而作品一覧を眺めているうち、「栄冠は君に輝く」「高原列車は行く」などに混じって、この「穂高よさらば」があったのは驚きだった。

 原曲が古関作曲の軍歌「雷撃隊出動の歌」(米山忠雄作詞)だと知って合点がいった。敗戦から数年がたち、ようやく山登りが再開された北アルプスで、岳人たちの間で自然に歌われ始めたものらしい。評論家の二木紘三さんによると、憧れのアルピニスト、芳野満彦らが詩を当てはめ、なんと10番にまで及んだという。

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