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【漫画漫遊】「水は海に向かって流れる」田島列島著 講談社 梅雨時に染みる物語

(c)田島列島/講談社
(c)田島列島/講談社

 先日、奄美地方がいち早く梅雨入りした。これから雨雲が日本列島を徐々に覆っていくだろう。本作の主な登場人物は男子高校生と26歳OL。シェアハウスを舞台にした日常生活と、2人の心の機微が描かれた本作は、そんな雨が降り続く季節に読みたい作品だ。

 主人公の直達(なおたつ)は高校進学を機に、おじさんが住む家で暮らすことになる。ところが雨の降る晩、駅に迎えに来たのは「榊(さかき)さん」という女性。どうやら、おじさんのルームメートのようだ。ほかの同居人も、女装占い師に謎の「教授」と多士済々。年上女性との「一つ屋根の下」といえばラブコメの名作「めぞん一刻」(高橋留美子著)を思い出すが、今作は甘酸っぱさよりもほろ苦さが先立つ。

 その理由は、直達の父と榊さんの母が以前、不倫で駆け落ちした過去があるからだ。直達の家は元のさやに収まった(ようにみえる)が、榊さんと母の関係は断絶。以後、榊さんは「恋愛はしない」と決めたようだ。この事実に気づいてしまった直達。榊さんの苦しみを「半分持ちたい」と、進んで波風を立てていくことを決意する。

 子供たちに罪はない。けれど、知らんぷりをしたり、水に流したりはできない-。2人が抱える「言葉にできない感情」と、やきもきする周りの人たちの感情の描写が自然で美しい。鎌倉に住む4姉妹の日常を描いた「海街(うみまち)diary(ダイアリー)」(吉田秋生著)のように、登場人物の感情の流れを追うため、折につけ読み返したくなる魅力を持つ。

 「俺がいなければこの人の肩が濡(ぬ)れることはなかったのに」「バチって当たるんですね」「私の中に修羅がおるのです」…。黒い雨雲が終始漂っているような作風だが、不思議とサラッと読める。小ネタやギャグが随所にちりばめられ、絵に独特の味わいがあるからだ。往年のホームドラマや印象派の絵画を見ているかのような印象も受ける。

 しとしとと降り続く雨音が心地よく聞こえるように、軽妙なセリフ回しや日常の描写が自然と心に染み入る。それでいながら、不意に読者の心にさざ波を立ててくる。恐ろしさも秘めた作品だ。既刊2巻。(本間英士)

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