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【寅さん50年 男はつらいよを読む-吉村英夫】(30)永遠の女性さくら 

「男はつらいよ」シリーズの50周年プロジェクト発表会に登場した倍賞千恵子(左)と山田洋次監督=平成30年9月6日、東京都新宿区
「男はつらいよ」シリーズの50周年プロジェクト発表会に登場した倍賞千恵子(左)と山田洋次監督=平成30年9月6日、東京都新宿区

 寅次郎が懐に家族の写真を忍ばせていた時期があった。第3作『フーテンの寅』(主なロケ地=三重県)で、それを宿屋の女中(樹木希林)に見せる。写っているさくら(倍賞千恵子)を見て、「このきれいな人が奥さん?」と尋ねる。寅は否定も肯定もしないが、あとで「かわいくても妹じゃ、しょうがねえや」とつぶやく。

 この一場面を根拠に「さくらは寅の永遠の恋人」説が唱えられた。確かに鋭い指摘である。寅は常に振られてはいるものの、寅がその気になればまとまったかもしれないケースが時々あったのは誰もが感づいている。にもかかわらず寅は、次の理想の女性を追い求める。

 失恋しないと次回作がつくれないシリーズ上の制約があるにせよ、さくらは確かに寅にとっては永遠の母性である。ギリシャ悲劇や『源氏物語』以来、男性が限りなく母にあこがれるというのは、人間の愛の本質をついている。

 しかし妹を愛することは許されない。少なくとも『男はつらいよ』においては、極めて倫理的な山田洋次監督だから、危ない発想は初めから封じ込めている。

 このシリーズのさくらの位置は決定的に大きい。シリーズは寅ととらやの滑稽譚というよりも、「寅とさくらの兄妹物語」である。それで納得できるはずだ。

 柴又にしっかり定着しているさくらはきめ細かい配慮もできる魅力的な存在である。毎回のようにラスト近く、失恋した寅をとらやの2階でさくらがなぐさめ、旅に出ようとするのを励ますシーンがある。この場面については語られることが少ないが、シリーズのハイライトの一つ。寅とさくらの気持ちの通じ合いが観る者の心にしみわたり、叙情派山田の演出がさえるところである。

 寅の失恋は、さくらも時に涙を浮かべるほど手痛いものではあるが、いつも寅がふられているわけではない。たとえば第45作『寅次郎の青春』(主なロケ地=宮崎県)。マドンナの蝶子(風吹ジュン)は、寅と一緒になってもよいと思ったはずだが、その決定的瞬間に寅はするりと身を引いてしまう。愛しあいながらの別れを選ぶ寅。

 他にも例をあげることができるが、寅の心にさくらの面影がちらついているからだと想像することは不可能ではない。かくして寅は、永遠の女性を求め、さらなる魅力ある母性をたずねて今日も旅を行くのである。

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