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【寅さん50年 男はつらいよを読む-吉村英夫】(17)フーテンと労働-「額に汗する」  

東京・銀座で平成2年、映画のポスター撮影に臨む渥美清。「フーテン」を四半世紀演じ続けた
東京・銀座で平成2年、映画のポスター撮影に臨む渥美清。「フーテン」を四半世紀演じ続けた

 渥美清の俳号は「風天(ふうてん)」。「お遍路が一列に行く虹の中」は、歳時記にも載る秀句である。フーテンの寅からの命名で、気ままな風来坊をイメージすればよいだろう。

 だが寅はフーテンであるのを本音では誇りに思っていない。逆である。

 例えば第5作『望郷篇』。寅は千葉・浦安の豆腐屋で働こうと決意する。北海道で蒸気機関車の石炭をたき真っ黒になって働く機関士の姿を目の当たりにして感動したからである。さらに「額に汗して、汗まみれになって働く人と、いいカッコしてブラブラしている人とどっちが偉いと思うの。地道に働くっていうことは尊いことなのよ」と、妹さくらに諭されて身にしみたのである。

 とはいえ。その決意も失恋の痛手で失速して実現しなかったところに、寅の、さらには『男はつらいよ』の神髄がある。

 「額に汗して」には、戦後の高度成長を成し遂げた日本人の心意気が現れている。第28作『寅次郎紙風船』(主なロケ地=福岡県)に格好の例が描かれる。柴又小学校時代、寅にいじめられて登校拒否にまでなった同級生の安夫(東八郎)が、同窓会で寅と再会し、またまた昔の「上から目線」でひやかされる。堪忍袋の緒を切った安夫が小さなクリーニング屋を営んでいる現実を吐露する。

 「そりゃな俺の店はよ、間口二間のケチな店だよ。大型のチェーン店が出るたびに売り上げが落ちて、何べんも店、たたもうと思った」が、妻子に励まされて「歯をくいしばって、沈みかけた船をあやつるように今日までやってきたんだ」と語る。

 シリーズ中で、もっとも厳しい寅批判にもなっており、寅は「上から目線」を恥じる。そして地道に働かず正業を持たない自分を反省して退散。表には出さないが寅は、そういうある種の謙虚さも持っている。憎めない男なのだ。

 山田洋次監督は、「働かない」遊び人の寅に悠々と旅をさせ、その能天気な生き方を延々と四半世紀も描き続けることで、逆説的に日本人が戦後、荒廃の中から立ち上がって、この国を先進国入りさせた心意気を描いている。同時に「先進国」とは何か、高度成長は、国民を本当に幸せにしたのかという問題にも言及しているとみたい。『男はつらいよ』が持つ、愉快さと問いかけの姿勢である。シリーズの奥行きの深さがここにもある。

よしむら・ひでお 映画評論家。三重県の高校教諭を経て、三重大学非常勤講師、愛知淑徳大学文化創造学部教授などを歴任。『完全版 男はつらいよの世界』(集英社)、『松竹大船映画-小津、木下、山田太一、山田洋次の描く〈家族〉』(創土社)など著書多数。津市出身。79歳。

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