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【寅さん50年 男はつらいよを読む-吉村英夫】(13)放浪の自由と素晴らしさ   

第18回ブルーリボン賞の受賞祝賀パーティーで記念撮影に収まる、倍賞千恵子(左から3人目)、浅丘ルリ子(同4人目)、山田洋次監督(右から2人目)ら。この年の「男はつらいよ」第15作で、浅丘は主演女優賞、倍賞は助演女優賞を受賞した=昭和51年1月30日、東京
第18回ブルーリボン賞の受賞祝賀パーティーで記念撮影に収まる、倍賞千恵子(左から3人目)、浅丘ルリ子(同4人目)、山田洋次監督(右から2人目)ら。この年の「男はつらいよ」第15作で、浅丘は主演女優賞、倍賞は助演女優賞を受賞した=昭和51年1月30日、東京

 浅丘ルリ子演じる旅回りの歌手リリーが欠けたら、『男はつらいよ』の魅力は小ぶりなものになっていたろう。リリーという個性が、あでやかな華を開かせ、浅丘が渥美清と丁々発止のやりとりをすることで画面はパッと活気づいた。

 山田洋次監督は、浅丘を「路地裏の長屋に暮らしているつましい庶民の娘」で「お豆腐屋さん、お豆腐ちょうだい」といったせりふが似合うマドンナにしようと考えていたという。だが実際に浅丘に会ってみると、彼女が別のキャラクターを持つことがわかり、「この女優ならいける」と直感した。これが最高のマドンナ誕生秘話。山田にとっても、寅次郎の妹さくら役の倍賞千恵子を別格にすれば、もっとも重要な女優との出会いであった。

 第11作『寅次郎忘れな草』(主なロケ地=北海道)が旅人の孤独と悲哀に力点があるとすれば、屈指の秀作とされるリリー再登場の第15作『寅次郎相合い傘』(同)は、逆にデラシネ(故郷喪失者)の自由と栄光を奏でた一編。

 寅につきまとう中年蒸発男(船越英二)を交えて3人が旅をし、気ままな放浪の素晴らしさを堪能する。小さな駅舎で夜を明かした3人がパジャマ姿で歯ブラシを使う姿に通学生たちが驚く。短いシーンだが、和気藹々(あいあい)さに拍手喝采したくなる。われら生活者は、朝(あした)に家を出て夕べに帰宅し家族で食事をして就寝する。寅ら3人は、その繰り返しの閉塞(へいそく)感から解放されている。

 だが寅とリリーは、女性の生き方で意見が食い違う。

 昔、愛した女性と再会を果たした蒸発男が、「たった1人の女性すら幸せにしてやることもできない駄目な男なのだ」と自嘲する。怒るリリー。「幸せにしてやる? 大きなお世話だ。女が幸せになるには男の力を借りなきゃいけないとでも思ってんのかい」。

 「お前もかわいげがない女だな」と寅が応えると、リリーが激怒する。「女がどうしてかわいくなくっちゃいけないんだい。寅さん、あんたそんなふうだから年がら年中、女に振られてばかりいるんだよ」。はじめはリリーがぷっつん、次は寅。これだけはお互い言ってはならなかった。

 かくして愛し合いながらの別れとなるが、再会したときには新しい展開が待っている。そして25作、実質的な最終作となった48作へと、リリーと寅の物語は続く。2人の絆は固いのである。

  ◇

 よしむら・ひでお 映画評論家。三重県の高校教諭を経て、三重大学非常勤講師、愛知淑徳大学文化創造学部教授などを歴任。『完全版 男はつらいよの世界』(集英社)、『松竹大船映画-小津、木下、山田太一、山田洋次の描く〈家族〉』(創土社)など著書多数。津市出身。79歳。

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