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【寅さん50年 男はつらいよを読む-吉村英夫】(8)俺は横文字のものはきらいだよ

イラスト・阪本優子
イラスト・阪本優子

 『男はつらいよ』第1作で、寅次郎は妹さくらを「大学出のサラリーマンと結婚させるんだ」と主張し、妹に恋心を抱く印刷工の博(前田吟)に「てめえらみてえな菜っぱ服の職工には高根の花だ」と一蹴する。だが博の真っ正直さに好感を持つと一転。「おい、コラ、青年、お前は大学出なきゃ嫁はもらえねえってのか。あーそうかい手前はそういう主義か」と学歴主義を退ける。

 自己中心的ながら感性は鋭く機転も利く寅はシリーズで一貫している。そしてマドンナの前に出ると平気で豹変(ひょうへん)する。

 「ハンバーグ? 俺は横文字のものはきらいだよ、食いたくないや」。だが愛する歌子(吉永小百合)の手料理だと知ったとたん「大好き、ハンバーグ、今晩あたり、洋食食いたいと思って」(第13作『寅次郎恋やつれ』=主なロケ地・島根県)。

 旅先で赤ん坊を押しつけられる第14作『寅次郎子守唄』(主なロケ地=佐賀県)。子連れで柴又・とらやに帰還した寅は「冗談じゃないよ、お前。俺が子守なんてできるわけねえ」と怒るが、大好きな京子(十朱幸代)が現れると急転。「さくら、赤ちゃん、俺が抱こうか、いつもの通り」となり、妹に「愛想のない女だねえ、情愛ってものが欠けてるんじゃないか」と毒づく。

 年齢を重ね、甥の満男(吉岡秀隆)の恋を応援するようになった第43作『寅次郎の休日』(主なロケ地=大分県)でも、それは変わらない。

 満男のガールフレンド泉(後藤久美子)が離ればなれになった父親に会うため九州に行くという。東京駅ホームまで送った満男だが、心配の余りお金も持たずに新幹線に飛び乗ってしまう。満男の両親は「すぐ追いかけたほうがいいんじゃない、新幹線で」と心配するが、寅は反対を表明。

 「ここは思い切って満男に任せろ。貧しいねえ、君たちは。カネなんかなくたっていいじゃないか、美しい愛さえあれば」

 そこへ泉の母親礼子(夏木マリ)が現れ、「え、九州? 私どうしたらいいのかしら」。礼子にぞっこんの寅は一転。「すぐまいりましょう、九州へ。何かあったら大変です。あんなガキ(満男)が頼りになると思うのか。奥さん、まいりましょう」。若い2人を追って夜行列車に乗りこむ寅と礼子。

 窮屈に生きるわれら生活者は、「いま」の自分に正直な寅を許して拍手喝采。

よしむら・ひでお 映画評論家。三重県の高校教諭を経て、三重大学非常勤講師、愛知淑徳大学文化創造学部教授などを歴任。『完全版 男はつらいよの世界』(集英社)、『松竹大船映画-小津、木下、山田太一、山田洋次の描く〈家族〉』(創土社)など著書多数。津市出身。79歳。

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