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【寅さん50年 男はつらいよを読む-吉村英夫】(6)結構毛だらけ猫灰だらけ 

イラスト・阪本優子
イラスト・阪本優子

 「国の始まりが大和の国、島の始まりが淡路島、泥棒の始まりが石川五右衛門なら助平の始まりが小平の義雄、続いた数字が二…」

 『男はつらいよ』が尻上がりに評価を得たその何割かは、渥美清の話芸の力に負う。最たるものが香具師(やし)の口上。品に欠けたりはするが、テンポのよさに思わず聞きほれる。そしてニヤリ。

 口上の定型詩的リズムがよい。第40作『寅次郎サラダ記念日』(主なロケ地=長野県)で、寅次郎はマドンナ真知子(三田佳子)と珍妙な文学談義を交わす。

 短歌と聞いて寅が「古池や蛙飛び込む水の音」を挙げると、真知子が「それは五七五の俳句だから、(短歌にするには)あと七七と続かなくちゃいけないの」と補足する。

 寅が嬉しそうに応える。「〈それにつけても金のほしさよ〉。これで七七。ゴロがいいからね、七七調ってのは、いくらでもつきますよ。結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻の回りは糞(くそ)だらけ。こりゃちょっと汚いか。…田い(大)したもんだよ蛙の小便、見上げたもんだよ屋根屋の褌(ふんどし)。みんな汚いな。ヤケのヤンパチ日焼けのナスビ、色は黒くて喰いつきたいが、あたしゃ入れ歯で歯がたたないよ。みんな七七だ」

 地口(じぐち)というか言葉遊びを交えた香具師の口上は、渥美自身、学業から落ちこぼれた少年時代から、実際に見聞きして覚えたという。江戸落語なども含めて、江戸期の物売りの言葉が次第に洗練されていき、渥美はそれをもっと明確な「芸」として蘇生(そせい)させ高めた。観客を笑わせ、さらに驚嘆させる域にまで達した。

 「七ッ長野の善光寺、八ッ谷中(やなか)の奥寺で竹の柱に萱(かや)の屋根、手鍋提(さ)げてもわしゃいとやせぬ、信州信濃の新ソバよりもあたしゃあんたのそばがよい。まかった数字が七ッ、…色が黒くて食いつきたいが、わたしゃ入歯で歯がたたないよ。サァ持ってって、500円、500円」

 『男はつらいよ』は愛され続け、今年は寅さん誕生から半世紀で、また蘇ろうとしている。渥美を知らない若者が、ナンセンスながらめっぽう調子のよい口上をどう評価し、いかなる形で寅さんを受け入れるのだろう。

 よしむら・ひでお 映画評論家。三重県の高校教諭を経て、三重大学非常勤講師、愛知淑徳大学文化創造学部教授などを歴任。『完全版 男はつらいよの世界』(集英社)、『松竹大船映画-小津、木下、山田太一、山田洋次の描く〈家族〉』(創土社)など著書多数。津市出身。79歳。

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