PR

エンタメ エンタメ

【寅さん50年 男はつらいよを読む-吉村英夫】「夢」から始まる三楽章スタイル

渥美清(前列左)と第9作でマドンナを演じた吉永小百合(後列中央)を囲む「とらや」の家族=昭和47年5月、神奈川県鎌倉市大船の松竹撮影所
渥美清(前列左)と第9作でマドンナを演じた吉永小百合(後列中央)を囲む「とらや」の家族=昭和47年5月、神奈川県鎌倉市大船の松竹撮影所

 「プロローグとエピローグのある三楽章」が『男はつらいよ』各作品の構成である、と山田洋次監督は自作を解説している。長期シリーズだから、あくまで基本であり自在に変形する。

 プロローグ(序曲)は、夢を見ている寅次郎。夢は荒唐無稽で、宇宙飛行から人食いサメの出現、舞台はアフリカ、アメリカ、古代、江戸時代、現代までと自由自在。破天荒の非リアリズムだが、内容は、望郷と、兄(寅)と妹(さくら=倍賞千恵子)の兄妹愛である。目覚めて故郷を思い出したところでメインタイトル。主題歌が流れて帰郷した寅が江戸川の河川敷を歩く。

 第一楽章は、東京・柴又へ帰る寅。帝釈天参道の町衆が次々と、とらやに参集する様子が描かれる。小さい山場ながら、印刷工場のタコ社長(太宰久雄)はじめ次から次へと現れ、ひと騒動となる。ここでのアンサンブルのみごとさは、類をみない高度なものに達しているのを見落としてはならない。さくらの寅へのさりげない思いやりも必ず点描される。だが寅はひと悶着(もんちゃく)起こして故郷を飛び出していく。

 第二楽章。旅で寅は美女に出会う。いつからかマドンナと称されるようになったが、寅は彼女にたちまち恋をする。同工異曲とも言えるし、みごとな変化球でもある。作品の中心である。第6作『純情篇』(主なロケ地=長崎県)で当時のトップスター若尾文子が登場してマドンナの占める位置が確立した。

 第三楽章は、多種多様な工夫がこらされているが、ともあれ寅の失恋とあいなる。空振りの恋から、あわや愛の成立というのまで、なんでもあり。失恋の痛手からまた旅に出る寅を、さくらが慰める情感たっぷりのシーンが用意されており、ハイライトの一つ。

 エピローグ(終結部)。失恋もなんのその、旅先の寅は村祭りの雑踏で香具師(やし)の口上を威勢よく述べている。高層ビルなんかとは無縁の地方の街である。冒頭の寅の夢は孤独感が漂ったが、ラストの寅はすがすがしい。次の恋への期待にうち震えている。

 山田監督の作劇術のみごとさ。三楽章形式が確立していたから長期シリーズが可能となった。劇的高揚がないとの批判も出たが、同時に安定した物語構造が観客を魅了した。テレビ時代劇『水戸黄門』もワンパターンの魅力であるのを思い出せば十分である。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ