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【寅さん50年 男はつらいよを読む-吉村英夫】(1)泣いて笑って元気もらった

主役の車寅次郎を演じた渥美清=昭和47年
主役の車寅次郎を演じた渥美清=昭和47年

 えっ、もう半世紀!寅さん映画第50作製作の報に感慨がある。

 昭和44年8月31日の公開5日目。当時私はモーレツ教員、次の日から多忙な2学期が始まるので、英気を養うべく『男はつらいよ』第1作(主なロケ地=奈良県)を見た。かつて大学映画研究会員だった私は、本作に何らかの情報を得ていたのかもしれない。

 ただ、主演の渥美清やタイトルに大きな期待はもっていなかった。ところが、またたく間に画面に吸い込まれた。主人公、車寅次郎の20年ぶりの柴又帰郷がまずは第1章。香具師(やし)のタンカバイが快い。

 「ヤケのヤンパチ陽ヤケのなすび、色が黒くて食い付きたいが、わたしゃ入歯で歯がたたないよっときやがった…」

 立板に水を流すような鮮やかな寅さんの口上。この映画は曲芸的な言葉遊びを抜きにしては成立しない。妹、さくら(倍賞千恵子)の見合いをぶっ壊すシーンも圧巻。あっけにとられて見入る私。

 第2章はさくらの恋愛と結婚。さくらに愛を告白する博(前田吟)の言葉が胸を打つ。

 「僕の部屋から、さくらさんの部屋の窓が見えるんだ。朝、眼を覚まして見ているとね、あなたがカーテンをあけてあくびしたり、布団を片づけたり、日曜日なんか…」

 さらに結婚式での博の父親(志村喬)の朴訥(ぼくとつ)な謝辞「こんな親でも、親の気持ちにはかわりないのでございまして…」には胸が締め付けられ目尻に涙がたまる。

 寅の失恋が第3章。「お笑いくださいまし、私は死ぬほどお嬢さんにほれていたのでございます」。いつか破格な寅に感情移入し、気持ちよく泣いては笑う。

 3章からなる鮮やかで濃密な人情喜劇。こんなに心を洗われた映画を見たことがない。泣いて笑って劇場を出たとき、私は明日からの第2学期に向かい合う元気をもらっていた。

 山田洋次監督への傾倒の始まり。『男はつらいよ』にほれこみ、後年、教員を早期退職し一念発起、映画研究者へとかじを切ることになった。50年間の寅さんと山田洋次への思いを、つづってみたい。

 よしむら・ひでお 映画評論家。三重県の高校教諭を経て、三重大学非常勤講師、愛知淑徳大学文化創造学部教授などを歴任。『完全版 男はつらいよの世界』(集英社)、『松竹大船映画-小津、木下、山田太一、山田洋次の描く〈家族〉』(創土社)など著書多数。津市出身。79歳。 

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