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【鑑賞眼】パラドックス定数「Das Orchester」 権力への芸術の抵抗

職務に忠実ながら音楽に理解のある将校(左、井内勇希)と楽団の天才的指揮者(右、西原誠吾) (WATANABE Ryuta撮影)
職務に忠実ながら音楽に理解のある将校(左、井内勇希)と楽団の天才的指揮者(右、西原誠吾) (WATANABE Ryuta撮影)

 埋もれていた傑作と言ってよい。作・演出の野木萌葱(のぎ・もえぎ)は近年とみに評価を高めているが、この作品の初演は22年前。19歳の時に書いたというから驚きだ。ナチ政権下のドイツで、ベルリンフィルとおぼしき楽団が追い詰められてゆくさまを鮮烈に映し出す。

 天才的指揮者(西原誠吾)の豪腕で名声を勝ち得ている楽団に、芸術を政治利用したいナチの宣伝相(植村宏司)が介入する。補助金と引き換えに鉤(かぎ)十字の舞台掲示を強要し、果ては楽団の国営化とともに「劣等人種」の解雇を迫る。楽団員の3分の1はユダヤ人だった。

 職務に忠実だが音楽に理解のある将校(井内勇希)や、政権に批判的だったが揺らぐ新聞記者(浅倉洋介)らが絡み、人物構図が単純ではない。殊に、ナチと指揮者との板挟みになる楽団の事務局長(小野ゆたか)の存在が効いている。

 さらに、歴史的状況を描きながら説明的な台詞(せりふ)がほとんどない点が優れている。立場や考えの異なるおのおのが端的な思いを交わすことで、次々と劇的な場面が連なってゆくのだ。独指揮者、フルトベングラーと思われるモデルがあったにせよ、緊迫感が途切れない作劇と演出が見事だ。

 終盤、指揮者は演目をベートーベンの「第9」に急きょ変更し、ある抵抗を試みる。音楽という純粋な世界がファシズムに侵される状況で、表現は何をなしうるのか。このテーマはいまなお古びることはない。

 31日まで、東京都新宿区のシアター風姿花伝。(演劇評論家 小山内伸)=おわり

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